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受け継ぐ。―雪乃

体育館までダッシュで戻ると、待ち構えていたかのように安栗さんに捕まる。

「あ、戻ってきた。」

「やっとね……………………待ちくたびれて帰るとこだった。」

「………………お、お待たせしました。」

乱れかけの息を整えて、鷹城部長の前に立つ。

「………………さて、その目を見れば改めて聞く必要はないと思うけど………………次の部長職、受けてくれる?」

「………………謹んで。」

部長の前で頭を下げて、次の言葉を待つ。そんな私の周りから聞こえてきたのは、深いため息。………………いや、安堵してる?

「………………やっと、肩の荷が降りた気分だぜ。」

「………………経堂先輩?」

「………………こっちは逆に胃が痛くなりそうっすよ。」

「………………安栗さんも。」

周りの先輩達も、ほっと肩を撫で下ろしている。………………えっ、えっ!?ど、どういうこと…………?

「………………いや、受けてもらえて助かった。もし受け取って貰えなかったら………………私はまだ、『執念』に囚われたままだったよ。」

鷹城『元』部長は、そっとやせ細った右手を撫でる。………………視線を外したくなるけど、踏みとどまる。

「………………さて、こっちは引き継いだよ。アズミの方もちゃちゃっとやっちゃいな?」

「………………へーい。」

……………………そういえば経堂先輩が名前で呼ばれてるの聞いたことないけど、アズミって名前なんだ…………。

「…………さて、文化。聞くまでもないと思うけど。」

「………………そうっすね、雪乃が受けた以上はあたしが受けないわけにはいかないっすよ。……………………次期副部長、受けさせていただきます。」

いつになく真面目な言葉遣いで、安栗さんが経堂先輩に答える。………………なるほど、そういう事だったのね。

「………………ふぅ、形式的にはこれで引き継ぎ終了っと………………。………………ところでさぁ、………………鷹城ぉ、人前で私を名前で呼ぶなって何回も言ってるのに………………」

「あら、私のことは下の名前で呼んでくれないの?」

「………………恥ずいんだよ。名前呼ばれんの。」

………………そういえば鷹城部長の下の名前って何だったかしら…………?チラリと横を見た私に、鷹城部長がささやく。

「私もアズミと初めて会ったとき、一発で漢字が思いつかなかったよ。『キョードーアズミ』なんて、どう書くのか初めてじゃ分かんないよね。いい、『アズミ』はね、亜麻の『亜』の字に純粋の『純』って書くのよ。」

「か、カケルゥ!?そんなの雪乃に教えんなっ!!」

経堂先輩が真っ赤になってる。………………ん?カケル?

「………………なんだ、知らなかったの?私の本名は鷹城カケル。『カケル』は飛ぶ方の『翔』よ。………………ふふ、今となっては物凄い皮肉な名前だけど。」

鷹城先輩が自嘲する。それを見ると、私の心もズキンと痛めつけられるようで。

「………………まぁ、そんなことは置いといて。」

と、鷹城先輩は周囲を見渡す。

「………………これからは白峰が部長だ。一年はもちろん、二年もどうかこいつを支えてやってくれ。」

そう言って、鷹城先輩は頭を下げる。つられて経堂先輩も頭を下げたので、私達を含めて一年生はみんな驚きの表情を浮かべた。

「…………やれやれ、白峰が部長だと私らはまだまだ引退できそうにないね。」

一番前にいた先輩が、なぁ、と後ろのみんなに聞くと、先輩方はみんな頷いた。

「……………………まぁ、白峰の好きにやってみな。私らも残り時間は少ないけど、手伝ってやるよ。」

「あ、ありがとう、ございます………………。」

私は、自然と頭を下げていた。…………………………だって、このまま目を開けてたら、涙がこぼれちゃいそうだもの。

「…………よーし、決まりだなっ。それじゃあ新部長の就任記念の打ち上げの話といこうかっ!!」

………………え、何ですかそれ。ってか皆さん驚いてないって………………もしかして………………。

横目で文化を見ると、文化もまた苦笑してる。

「……………………なんとか土曜日に間に合いましたね。………………雪乃の誕生日に。」

あっ………………そうだ、無意識に望乃夏と買い物の約束してたけど…………私の誕生日………………。

「っつーわけで、土曜は朝からフル練習の後焼肉だっ!!みんな、昼飯は程々にしとけよっ?」

体育館に歓声が響く。………………あの、なんで主役不在で話が進んでるんですか。

「…………まぁ、これが経堂先輩が仮にも元副部長だった由縁だから。」

文化が遠い目でみんなを見守る。話は既に、打ち上げ場所と予算のことになっている。


………………ど、どうしよ………………望乃夏との、誕生日お買い物デートが………………。

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