6本目…………?―望乃夏
………………土曜日は、雪乃とデー…………お買い物、っと。
私は、頭の中のスケジュール帳にしっかりと書き込んだ。………………あれ、でも確かその日は………………
「………………何してるの望乃夏、置いてくわよ?」
急に立ち止まった私に、雪乃がジト目を向ける。
「あ、うん。今行くっ。」
とてとてっと雪乃のそばまで走ると、弾みで揺れた雪乃のツインテールの先が鼻先をくすぐる。
「ふえっ………………ごふっ」
咳き込んで、すんでのところでクシャミを相殺する。
「………………もう、何してんのよ。」
相変わらずジトーっとした目線なままの雪乃。………………うう、その目はやめて………………
「じゃ、じゃあ教室こっちだから………………」
気まずくなった空気を誤魔化すように、雪乃と別れて歩きだそうとする。だけど、そこに思わぬ邪魔が入る。
「…………およ?見覚えのない頭だと思ったら墨森ちゃん!?」
「あ、安栗…………さん…………」
聞き覚えのある声に振り向いて、目線が釘付けになる。…………そ、その髪型は…………
「あら、文化。…………って、その髪型…………は…………」
「おっ、雪乃じゃーん。ふふふ、気がついたー?ちょっとしたイメチェンでツインテにしてみましたー、なんつって。」
………………そう、安栗さんの頭にも小さいながらツインテが揺れていた。………………ショート気味の髪だからほんとにぴょこーんとした小さいのだけど。
「ふふふー、雪乃もツインテか。これは奇遇だねぇ………………それにおそろ…………い?」
何かに気がついたように、安栗さんは私と雪乃を交互に見比べて、自分の頭に手をやる。そして、なぜか青ざめていく。
「ご、ごめんよ………………ふたりのラブラブお揃いツインテールを邪魔するつもりはなかったのさ………………」
と、そそくさとゴムを外していつもの髪型に戻す安栗さん。
「べ、別にいいわよ………………そ、それに何よ、ラブラブお揃いって…………」
雪乃が急にモジモジする。………………ら、らぶ…………らぶ…………!?
「いやー、だって実際ラブラブじゃん?……………………その、保健室で2人きりで抱き合ってたんでしょ?」
「「に゛ゃ゛っ゛!?」」
音にすればこんな感じの声を2人で立てる。
「ど、どどどどどうしてそれををををを!?」
しめた、という表情で安栗さんがニヤリとする。
「………………へぇ、やっぱりそうだったんだ。」
この瞬間、私達はさっきのがカマかけだったことに気がつく。
「…………ふっふっふ、いい情報いただきっ。」
「あ、こら待ちなさい文化っ!?」
そそくさと逃げようとする安栗さんを追いかける雪乃。それを目で追いながら、私は昨日の保健室でのことを思い出して………………一人で悶える。
(うう……………………なんで、あんなとこで…………あんなこと………………)
かぁぁ/////と頬が染まっていくのを感じつつ、自分の胸に手を当てる。
(………………雪乃は、ボクの胸が好き、なのかな………………?)
寝てる時もずっと頭は『ここ』にあるし、着替えの時も…………チラチラと視線を感じるし………………。
(………………こんな硬いクッションのどこがいいんだろ?)
制服の上からふにふにと触ってみる。………………部屋のぬいぐるみの方がよっぽとマシだけどなぁ…………?
ふと目線を戻すと、雪乃がやっとのことで安栗さんを捕獲したところだった。
「………………はぁ、はぁ…………あんた、その機動力をもっと他に活かしなさいよ………………」
「………………ぜい、ぜい………………、や、やだね………………この素早さは、女の子を愛でるためだもん………………」
「…………2人で何やってるのさ…………」
珍しく、私は雪乃達にジト目を向ける。
「………………っと、それは置いといて…………」
「なに、話を変えて逃げる気なの?」
雪乃が追求の手を厳しくする。けど、
「………………雪乃。ちょっと真面目な話になるけど………………」
「………………な、何よ。急に改まって………………」
一瞬で変わった態度に私達は戸惑いつつも、その次の言葉を待つ。
「………………雪乃…………、『あの人』からの伝言なんだけど………………『会えないか?』とのことだ。」
その言葉に、雪乃の顔から表情が消える。そして、次に浮かんできたのは畏怖と尊敬、そして困惑と悲しみが混ざり混ざったような、複雑な顔。
「………………どうする?一応、今日の練習前にって話だけど…………」
安栗さんの顔にも困惑の表情が浮かんでいる。けど、雪乃の顔はもっと複雑で。
「………………わかった、とだけ伝えておいて。」
「………………ん、了解。」
それだけ言うと、立ち去る安栗さん。
「………………ねぇ雪乃。」
「………………ごめん、あとで全部話すから。」
そう言って3組の教室に向かう雪乃は、どこか重苦しい雰囲気を漂わせていた。