表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/152

あさのふとん。―雪乃

部屋に戻ると、望乃夏は早速布団へと走る。

「………………もう。しょうがないわね。」

「だってまだ6時前だよ?人が起きる時間じゃないよー。」

「………………毎日6時起きしてる私に謝りなさい………………。」

それでも、私も少し眠気に襲われて欠伸を一つする。

「ほら、雪乃だって眠いんじゃん。………………ね?こっちおいで。」

望乃夏が、布団の中から手招きする。………………ぐ、こ、断りにくい………………。

長い葛藤の末に、私が折れた。

「………………あと一時間だけよ?」

そう言って望乃夏の隣に潜り込むと、いきなり望乃夏が私を抱き寄せる。

「きゃっ!?………………ん、んむっ…………」

悲鳴を上げる余裕もなく、望乃夏に唇を塞がれる。………………望乃夏が、私の中に………………

「………………ふぅ、雪乃…………おはよ。」

しばらくして、望乃夏が唇を離す。私と望乃夏の間に、つつぅ…………と銀の橋が渡されてすぐに落ちていく。

「の、のの、かぁ………………」

とろんとした目で望乃夏を見る。…………次第に目の焦点が合ってきて、同時に望乃夏へのちょっとした怒りも湧いてくる。

「……………………い、いきなり、ちゅー、するなんて、の、望乃夏は、ナニ、考えてるのっ!!」

くらくらする頭を無理やり働かせて、途切れ途切れの言葉を紡ぐ。

「…………ごめんごめん。でも…………雪乃が悪いんだよ?…………さっき、すっぽかしたから。」

「あ、あれは……その………………」

内股になってモジモジする……………………そろそろ望乃夏に頼らないで、一人で行けるようにならないととは思ってるけど………………。

「……………………やっぱり、まだ怖いの?」

望乃夏が、心配そうに見つめてくる。

「………………そう、みたい。多分行こうと思えば一人でも大丈夫なんだろうけど…………ダメね、またスイッチ入っちゃうんじゃないかって。」

………………自分でも情けないって思ってる。………………昔のことでいつまでも悩んで、夜が怖いなんて。

「………………雪乃………………怖いことに無理して立ち向かわなくてもいいんじゃないかな。……………………ボクなら、どんだけぐっすり寝ててもたたき起こしていいから、無理しなくても………………」

「………………いいえ。これは、私の問題だから…………。」

………………望乃夏に、迷惑かける訳には行かない。

「………………そう?………………でも、無理しちゃダメだからね?………………いざとなったら」

「し、しないわよ!!…………どっちもっ…………」

望乃夏が、チラリと布団とバケツを見比べる。………………の、望乃夏は私を何だとっ………………

「ごめんごめん。……………………でも、雪乃の気持ちはわかるよ。………………一度失敗すると、全部が怖くなるよね。ボクだってそう。………………………………ボクも、家族に関しては、失敗しすぎて今では触れるのすら怖い。だから触れないようにしてるけど………………どうしても、触れなきゃいけない時は来るし。………………ほんとにさ、関わりたくないことだけ避けるのって難しいよね。」

「………………のの、か…………。」

「………………だからさ、雪乃も無理しすぎないで」

「一番無理してるのは、望乃夏の方じゃないの?」

望乃夏の言葉を遮って、私は言う。

「………………あと一月もすれば年末よ。そしたらほとんどの寮生は帰省するわ………………。もしかして、年末年始も寮で過ごすつもり?」

「………………ボクに、あの家に帰れと?」

望乃夏の声も自然とトーンダウンする。そして、その目もいつもの眠たげな視線から、重苦しくて突き刺すような目線になる。

「………………そうは言わないわよ。ただ、私は帰省するつもりよ。…………そうなったらこの部屋の掃除は誰がするの?洗濯物はどうするの?ごはんもよ。」

「そ、それは………………」

望乃夏が言葉に詰まる。

「………………実家から帰ってきたら、部屋がゴミ屋敷でした、なんてのは嫌よ?………………一人暮らし不適合者な望乃夏を置いてったら、何があるか分かったもんじゃないし。…………………う、うちに来なさい。」

「……………………ほへ?」

望乃夏がマヌケな声を上げる。………………その代わりに私はみるみる真っ赤になっていく…………。

「……………………私と一緒に、私の実家に来なさいよ。…………大丈夫よ、それなりに広いから望乃夏一人増えても構わないわ。それに………………『あの日』以来、私には友達なんていなかったもの。そんな私が連れてくるんだから、望乃夏は歓迎されるわよ、きっと。」

「い、いいの………………?」

望乃夏はオドオドとうろたえる。

「………………とりあえず今度電話してみるわ。実家も一応県内だから費用は心配しないで。」

「ゆ、雪乃………………ありがとっ。」

「わぷっ!?」

私は、望乃夏の胸に抱き寄せられる。や、やわらか…………くるしっ…………

「の、のの、か、くるしっ……」

「あ、ご、ごめん…………」

望乃夏の腕から逃れると、少しだけ距離をとる。

「………………まぁ、その前に私の誕生日や定期試験、ついでにクリスマスも待ち構えてるから、それを片付けてからになるわね。」

「………………そういえば、雪乃の誕生日聞いてなかったけど…………いつなの?」

「………………12/6よ。」

「うえっ!?もう3日もないじゃん!!なんでもっと早く言ってくれないのさぁ………………」

望乃夏がむくれる。

「…………ただ一つ歳をとるだけのことでしょ?なんでそこまで大騒ぎする必要があるのよ…………。」

「………………だって………………。」

「………………とにかく、ケーキとかお祝いなんて要らないわよ。………………あ、甘いものは、嫌いだから。」

「ふぅん………………?」

望乃夏が目ざとく何かを聞きつける。

……………………今年は、楽しい誕生日になりそうね。望乃夏に背中を向けて、自然と緩んでいく顔を整えるのに苦労した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ