元通り…………?―望乃夏
「……………………。」
「……………………」
「……………………おーい、雪乃&墨森ちゃーん?」
「………………なに?」
「………………そ、そんなに見つめられると、こっちも恥ずかしいんだけど…………。」
安栗さんが自分の胸を隠して、私と雪乃を交互に眺める。
「…………あんたがそこに居るのが悪いのよ。」
「だってさぁ………………」
話は、数分前に巻き戻る。
とりあえずお風呂に入ってからゆっくり考えようということで、3人でお風呂してるわけだけど。「墨森ちゃんと雪乃がくっつくと何があるか分かんないから」と安栗さんが言い出して、湯船の中で私達の間に安栗さんが挟まる形となった。
………………それにしても、安栗さんって、制服だと分からなかったけど………………けっこう、大きめ。
「………………望乃夏、失礼よ。」
と、雪乃にたしなめられる。
「お、気になる?触ってみる?」
と、私にグイグイとバレーボールサイズの胸を押し付けてくる。…………そぅっと手を伸ばすと、雪乃に安栗さん共々叩かれる。
「………………望乃夏のえっち。」
「………………ごめん。」
「………………文化も文化よ。私のルームメイトを誘惑しないで。」
「ごめんごめん、墨森ちゃんってどんな反応するのかなーって。」
「………………その脂肪の塊もぎ取るわよ?」
「おー怖い怖い。」
おどけたように身を引くと、
「………………でもさ、雪乃はさっきまで『部屋に帰りたくない』とか『望乃夏とはもう一緒の部屋に居れない』とか言ってたのに、まーだ墨森ちゃんをルームメイトって認めてるんだねっ。」
「にゃっ!?」
あ、雪乃が噛んだ。
「………………本心はさ、また一緒になりたいんでしょ。」
「………………そうね。身体は嫌がってるけど…………心は正直みたい。」
「ならもう、答えは出てるようなもんじゃない。」
「………………だけど、まだ怖いの。…………望乃夏が、私に触れるのが。」
その言葉に思わず立ち上がる。……………………わ、私は………………雪乃にそんな大きな傷を………………
「………………雪乃、…………ごめんっ。」
直立不動のまま、頭を下げる。
「の、望乃夏………………」
「………………あの時、どうしても雪乃に分かってもらいたくて………………あんなこと………………」
「………………望乃夏…………」
雪乃もまた立ち上がる。
「…………私こそ、頑なに否定してごめんなさい……………………その、望乃夏が夢を変えたってのが、すごくショックで………………なんで話し合わなかったのかって、今は後悔してるわ………………」
「………………雪乃。」
「………………望乃夏。」
お互いに見つめあって、なんか恥ずかしくなる。…………そのムードを、咳払いがかき消す。
「墨森ちゃーん?雪乃ー?…………とりあえず落ち着いて座ろっか。…………そ、その…………みんな見てるし、それに私の鼻先にそんな美味しそ………………じゃなかった、…………お、女の子として大事なとこをチラつかせないでくれるかなっ!?………………わ、私の心臓がもたないからっ!」
安栗さんの言葉に我に返ると、お風呂中の視線が私達に向いていた。………………慌てて、湯船に身体を沈める。………………雪乃は、顔まで埋まってブクブクしてるけど。
「と、とりあえず良かったね。仲直りできそうで。」
息を荒らげた安栗さんが、息も絶え絶えに言う。
「………………望乃夏、文化みたいな変態になっちゃダメよ?」
と、雪乃が安栗さんを冷ややかな目で見る。………………良かった、いつもの雪乃だ。
「と、ともかくさ…………お2人は仲直り下ってことでおっけー?」
「………………うん。ボクはもう、雪乃を恨んでない。」
「私もよ………………結局、なんでこんなに大事になっちゃったのか分からないわ…………」
その答えを聞くと、安栗さんは私達の手を取って立ち上がらせる。
「と、言うわけで、墨森ちゃんと白峰さんはこの通り仲直りしましたっ。お風呂場の皆さんが証人になってくださいねっ。」
「ちょっ、文化っ!?」
「あ、安栗さん………………」
私も雪乃もゆでダコみたいに真っ赤になってうつむく。…………お風呂場のあちこちから、拍手や口笛、ついでに黄色い悲鳴が上がる。
(ゆ、ゆきのぉ………………恥ずかしいよぉ………………)
(わ、私だって恥ずかしいわよっ!!………………こ、こんなの…………)
………………うう、消えたい………………周りに居るのは全員女の子なのに、なんで対して面白くもない私達の身体にこんな視線を向けるの!?
「…………さーて、2人が仲直りできたみたいだし、私は先に上がるよっ。それじゃ2人とも………………今夜はどうぞ、ごゆっくり。」
ムフフ、なんて笑いながら安栗さんが脱衣場に歩いていく。………………お、おたのしみ………………?
「………………望乃夏、とりあえず湯船に浸かるわよ………………こ、これ以上見られたくない…………」
雪乃は、先にザブンと顔まで一気に浸かって待っている。
「う、うん………………」
視線から逃げるように、私も湯船に沈む。
………………周りから聞こえてくる、「お幸せに」とか「雪乃ちゃん泣かすなよ〜」なんて声が、私のメンタルにグッサグッサと刺さっていく。
「……………………」
無言で雪乃に助けを求めるけど、雪乃は(諦めなさい…………)と達観した表情。
………………あ、安栗さん、まさかこれも計算に入れて………………
………………外堀の埋まっていく音に、私は身を震わせた。