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残された者。―望乃夏

「………………ふぇ…………」

私は、静かに目を開ける。………………あれ、私は………………。

「雪乃………………?」

キョロキョロと辺りを見回すけど、雪乃はどこにもいない。

えーと………………目が覚めて頭が働くようになるにつれて、直前の記憶が蘇ってきて………………頭の芯まで真っ赤になる。

(や、やっちゃった……………………)

布団に顔を埋めて、クッションに何発も拳を打ち込む。………………あぁぁぁぁなんであんなことしちゃったんだろ………………

布団の上を何回も転がって、いい加減気持ち悪くなってきたあたりではたと気がつく。………………そうだ、雪乃はどこ行っちゃったんだろ…………。

書き置きでも残されてないかと、雪乃のベッドやテーブル、机を覗くけど、手がかりは何も無い。

………………探しに行かなきゃ…………でも、どこを………………?

まず考えついたのは、安栗さんの所。………………何だかんだ雪乃のことをよくわかってる人だし、もしかしたら………………

携帯を取り出して、昨日貰った番号に電話する。数コールのうちに、安栗さんが電話口に出る。

「はいはい、こちら文化ふみかの携帯だよっ。」

「あっ、もしもし安栗さん!?」

「およ?その声は墨森ちゃんかな?どしたの?」

「………………いや、そっちに雪乃が行ってないかなー、って思って。」

「ん、んー?どうしたの?」

「実は………………雪乃が部屋から出ていったっきり戻ってこなくて。」

一応、まだ雪乃とのケンカ?のことは伏せておく。

「………………んー、そんな何時間も帰ってこないの?」

「えと………………」

壁の時計を見ると、帰ってきた時から既に1時間はゆうに経っていた。…………そんなに長く気絶してたのか、私。

「んと…………2時間まではいかないけど………………。」

「………………それならもう少し待ってみればー?雪乃も案外方向音痴なとこあるし。」

「…………うん、そうする。」

「そっか。…………んじゃまたねー。…………あ、そうそう、墨森ちゃーん。……………………雪乃を泣かせたら、承知しないかんね?」

と、最後の方だけドスの効いた声で告げて安栗さんは電話を切る。………………何だろ、何かが引っかかる。けど………………。

確証が持てないまま、私は部屋の中でただ呆然としていた。


時計はもう、19時を回ろうかという所まで来ていた。けど、私はベッドに腰掛けたまま、そこを動けずにいた。

(………………雪乃…………)

携帯を握りしめたまま、ずっと部屋の中で雪乃を待ち続ける。時折、パタパタと廊下を歩く音が聞こえて期待するけど、私の部屋の扉を開ける足音はなくて。今も、もう何十回目かわからない足音を聞いて見送る。

………………もう雪乃は、戻ってこないかもしれない。私の心は、そんな考えに支配され始めていた。

私は、静かに左手を眺める。………………この手が、この手が悪いんだ。この手が………………私の感情や欲望に突き動かされて、雪乃を穢して、大切なものをこぼれ落とした。

「うぐっ…………ぐすっ…………」

いつの間にか、顔を覆って涙を堪えていた。けど、その指の隙間からとめどなく涙は溢れてきて。…………左手に残る微かな雪乃の残滓が、余計に惨めさを煽る。

「ゆき、のぉ…………………………」

もう、ワガママは言わないから。『雪乃のため』って誤魔化したりしないから。………………お布団だって、もう少しスペースを分けてあげるし、もっと、女の子らしいこと勉強するから………………雪乃、帰ってきて………………。


いつの間にか泣き疲れて、ベッドに突っ伏していた。

………………顔、洗わないと。ベッドの上に吊るしたタオルを取って、頭から被る。………………そうだ、どうせならこの手も、この身体も全部洗い落としちゃおう。そうすれば、雪乃とのことも………………。

クローゼットから適当に引き抜いて、小脇に抱えて大浴場へとふらふら歩く。途中、何度も壁や人にぶつかりながら歩いているうちに、いつしか大浴場の前に着いていた。

………………そうだ、どうやって服脱ごうかなぁ。

そんなことを考えながら扉を開けると、同じように扉を開けようとする誰かの手と重なる。

「…………あ、失礼。」

目線も上げずに言うと、

「の、のの、か…………?」

「あん?」

私を名前で呼ぶ人なんて………………目線を上げると、そこに居たのは。

「ゆき、の………………?」

………………なんで?

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