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打ち明けて、壊してく。―望乃夏

今回はセーフとアウトのギリギリを突っ走ってます。

私がその言葉を打ち明けた時、雪乃は目を見開いて固まった。………………だろうね、私だって…………できれば、こんなこと、打ち明けたくはなかった。

「な、何よ…………それ………………なんで、望乃夏が大学に行くと…………会えなくなるの?」

「………………雪乃、ボクも少し調べたんだ。バレーの強い大学は県内にもあるけど、トレーニングセンターは県外なんだって。実業団なら尚更ここから離れたとこだし………………そして………………ボクのやりたいことも、県外の大学じゃないとできないみたい。それに………………大学に入ったら、雪乃とは同じ時を刻めなくなるんだ………………。」

「ど、どういうことよ、それ………………。」

「………………雪乃。ボクはね………………薬剤師になりたいんだ。」

つい数時間前に決めたことだけど、私の決心は意外と固くて。

「やくざ、いし………………」

「雪乃、それ区切り方違うから。」

…………もはや定番となったツッコミを入れながら、このやり取りもあと2年ぐらいかぁ…………なんて考えて。………………寂しくなる。

「の、望乃夏………………なんで、薬剤師を目指すと、私と会えなくなるの?」

「………………もし雪乃が大学行くとしたら、卒業まで何年かかる?」

「そ、それは………………4年……でしょ?」

「…………普通なら、ね。だけどね。…………薬科や医学部は、6年制なの。だから、雪乃とは同じ卒業式には出られない。しかも、生命に関わることだから単位一つ落としても………………いや、一回欠席するだけでも留年が決まっちゃうんだ。だから、………………下手すると、雪乃が試合で活躍してるのすら見られないかもしれないし、25-6歳の大学生するかもしれない。………………これが、雪乃と同じ時を刻めないって言った理由。」

「そ、そんな………………」

………………やっぱり驚いてる。そりゃそうか………………いきなり、お別れだって告げれば、ね………………。

「………………ま、近況報告ぐらいは時間を見つけてするからさ。今のうちに雪乃との時間を楽しんで」

「望乃夏。」

不意に言葉が遮られる。

「…………なに、雪乃。」

「………………望乃夏は、なんでそんな厳しい道に進もうって思ったの?普通に理系の大学行けば、望乃夏のやりたい実験はできたんじゃ」

「ううん。」

私は、首を横に振る。

「それじゃ、だめなの………………。」

「ど、どうして………………」

「………………ボクは、雪乃のために、薬剤師になりたいの。」

………………こ、告白ぐらいドキドキする………………。

「わ、私の、ため………………?」

キョトンとする雪乃の目を見て、しっかりと話しかける。

「そう………………さっき、雪乃は合わない薬が多いって言ってたよね。…………薬剤師になれば薬のアドバイスもできるし、雪乃の体調管理も手伝える。………………ボクの想像だけど、雪乃は全日本選抜とか、そういうプロの選手になるんじゃないかなって。そうなると色んなとこを飛び回るから、体調も崩しやすそうだし…………そんな時でも色んなアドバイスができるから。後は、ね………………ボクは、雪乃と一緒に住みたい。………………け、結婚は、まだあんまり考えてないけど………………薬剤師ってどこでも通用するから雪乃がどこに移籍しても付いていけるし……………………雪乃が引退することになっても、食べさせてあげられる。………………わがままだけど、ボクは雪乃と一緒がいい。だから、薬剤師になりたいなって。」

私の話を黙って聞いていた雪乃は、しばらく黙ったまま何も言わなかった。やがて口を開くと、

「………………天寿に勤めれば、生活だって安定すると思うんだけど…………」

「うん、確かにそうだけどね。………………今まで、ボクは知識をあくまで自分のためだけにしか使って来なかった。………………でもこれからは、誰かのためにこの知識を使おうって思ったんだ。………………そのきっかけは、もちろん雪乃だけどね。」

「……………………そう、やっぱり原因は私なのね。」

………………あれ、風向きが変わった?

「………………望乃夏、悪いけどその夢は諦めて………………。」

「ゆ、雪乃?」

「………………私のために、望乃夏の人生を左右したり…………縛り付けるわけにはいかないから。そんなことになるぐらいなら……………………私は、バレーを棄てるから。」

「雪乃………………」

私は、耳を疑った。雪乃から、バレーを棄てるなんて言葉が出てくるなんて………………。

「…………だから望乃夏、私のことなんか気にせず、自由に生きていいのよ……………二人で住む話は、その後で」

「………………雪乃の、うそつき。」

思わず、思いが口に出る。

「…………私が、うそつき?」

「………………さっき約束したよね?どんな話になっても、決して自分のことを責めないって。」

冷ややかな目線で雪乃を射抜く。………………こんな目で、雪乃を見ることになるなんて思わなかった。

「………………それは謝るわ。だけど………………望乃夏は、それでいいの?他にもやりたいこと、たくさんあるでしょうにぃ!?」

気がついたら、右手で雪乃のほっぺたを平手打ちしてた。無理やり動かした右肩から嫌な音がした上に、反動が伝わって激痛が走る。

「ぐぅっ………………」

思わず右肩を押さえてうずくまるけど、目線は雪乃から外さない。

「の、望乃夏…………」

雪乃は、たれた左頬に手を当てて目を見開いて固まってた。

「か、肩痛くない………………」

「ああ痛いね。だけど………………心の方がよっぽど痛いよ。………………ごめん雪乃。…………今初めて、雪乃のこと嫌いって思った。」

「の、望乃夏が…………私のこと…………きら、い?」

雪乃の目の焦点が、合わなくなっていく。

「やだ………………そんなっ…………」

「…………ボクは、雪乃の夢を助けたい。だから…………分かってもらえない?」

雪乃は頷きかけて、途中で止める。

「…………ううん、やっぱりダメ。………………私が望乃夏の夢をねじ曲げるわけにはいかないの………………。だから…………」

ぷちん、と私の中で何かが切れる。考えるよりも先に、身体が勝手に動いていた。雪乃の身体を全力で突き飛ばして、私のベッドに押し倒す。

「きゃあ!?の、望乃夏、なにして」

「……………………雪乃がどうしても、自己嫌悪するんだったら。」

強引に、雪乃の唇に私の唇を押し付けて奪い取る。

「ぷ、ぷはっ、のの、かぁ…………」

「…………………言葉でだめなら、身体に教えてあげる。」

沸き立つ頭の中を押さえつけることはせず、ただ思うがままに腕を動かす。雪乃のトレーナーの奥に、痛まない左腕を差し込んで、小さな果実を握りしめる。

「…………雪乃、ごめん。痛くしない自信ないや。」

果実から離した手を、今度は雪乃のズボンへと差し込む。指に触れる草叢くさむらをかき分けて進むと、すぐに『目的地』は見つかる。攻め込もうと身を乗り出して………………雪乃の泣き声が、耳に入る。

「のの、か…………やめ、て…………」

すすり泣く雪乃に、私の熱は急速に冷めていって…………頭からは、余分な程に血が下っていく。

…………………………私は、今、何をしようとしたの? 自分の左腕をじっと眺めて、ものすごい罪悪感にさいなまれる。

………………この手で、雪乃を……………。

私の意識も、いつしか熱とともにどこかに消えていく。

生き残れるかなぁ、これ

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