はんぶんこ。―望乃夏
コンビニの自動ドアをくぐると、途端に寒さが私たちに襲いかかる。
「うっわ、さっむ。」
手に提げたビニール袋を外から触って暖をとる。
「あ、望乃夏、ずるいわ。」
と、雪乃も横から両手を差し出してくる。
「ひゃっ!?」
雪乃の冷たい手が、私の手に触れる。
「つ、つめたいから…………もうちょっとそっちに…………」
「の、望乃夏はもう充分あっためたでしょ。今度は私の番。」
と、温かいエリアをどんどんと占領する雪乃。
「…………もう。」
そんなことを言いながらも、少しだけ温かいところを分けてあげる。
「………………うーん、この辺に座るとこないかな…………。」
「あ、望乃夏、あそこ。」
雪乃が指さす先を見ると、バス停にベンチが置いてある。お、ナイスタイミング。
2人でベンチに腰掛けてコンビニの袋を開けると、私の視界が白く曇る。
「わっ!?」
「………………望乃夏、何やってんのよ………………はい、こっちがあんまん。」
と、雪乃がさっさと肉まんを取り出して、私にあんまんを渡す。
「サンキュー、雪乃。」
二人並んで、せーので饅頭にかぶりつく。………………そして、二人同時に一瞬固まって…………それから、顔を見合わせる。
「………………ねぇ望乃夏。」
「…………雪乃、これって。」
それぞれがかじった跡を見せ合う。…………私の方からは肉汁があふれて、雪乃の方からはあんこが見える。
「………………ごめん、私が間違えたみたいね。」
と、雪乃が落ち込む。
「いいっていいって。………………どうせこの後、半分こするんだし。」
と、肉まんを半分にして、かじっちゃった方を紙の上に置いて、もう半分を雪乃に差し出す。
「………………ありがと。」
と、雪乃は手を差し出すのかと思いきや…………差し出された肉まんに、そのままかじりつく。
「ゆ、雪乃…………」
「生憎私は今両手が塞がってるから。」
と、二つにしたあんまんを両手に持って雪乃が言い訳する。
「むー…………雪乃、はい、あーん。」
少しだけむっとしたけど、私も面白がって雪乃に肉まんを差し出す。その度に、私の指に噛みつかんばかりの雪乃を眺めて楽しむ。
「あら、もう終わり?………………そ、それなら…………次は私の番ね。」
雪乃が、寒さでほんのり頬を赤らめながら半分このあんまんを押し付けてくる。
「ゆ、雪乃…………そんなに押し付けないでって………」
「………………あーん。…………あーーん!!」
「は、はいはい………………」
無理やり押し込まれるあんまんを、少しずつ噛みとる。………………ゆ、雪乃…………飲み込む余裕ぐらいはちょうだいよ………………しかもあんこめっちゃ熱いしっ。
こうして、雪乃の「あーん」と言う名の拷問(?)を受けきった私は、少し冷めてきた残りの肉まんを急いで食べきった。
「…………あ、そういえば薬局行ってないや。」
「の、望乃夏………………。」
雪乃が頭を抱える。
「そっちの方が大切じゃない…………」
「しょ、しょうがないでしょ………………雪乃といると、色んなことがどうでも良くなってくるんだもん………………。」
「あのねぇ………………」
と、雪乃の追撃が始まりそうなとこで、私たちは薬局に着く。
自動ドアをくぐって処方箋を渡すと、薬が来るまで私たちは薬局の中をぶらぶらすることにした。
…………へぇ、こんな薬があるんだ。どんな薬品が使われてるんだろ。
色んな薬の箱をひっくり返して成分表示を確かめる私に、雪乃が呆れたように言う。
「………………もう、望乃夏ったら。少しはじっとしてなさいよ。」
「…………だって、こういうの気になるんだもん………………それに、成分によっては飲んだ薬で身体を害することだってあるし。」
「………………まぁ、それは否定しないわね………………。私も相性合わない薬が多いし。」
「ゆ、雪乃………………。」
その時、調剤が終わって私を呼ぶ声がする。
「ほら、できたみたいよ。」
「う、うん………………。」
なんとなくモヤモヤしたまま、薬を受け取りに行く。
次回はちょっとだけ重くします。