ひみつ…………?―望乃夏
「………………雪乃、す、拗ねてるの…………?」
「………………別に。心配して損したとか、これっぽっちも思ってないから。」
「やっぱり思ってるんじゃん…………」
………………はぁ………………。私のケガが大したことないと分かってから、雪乃がずっと不機嫌なまま。
「…………で、望乃夏。それは何?」
「ん、ああ、処方箋。…………湿布と痛み止めだって。」
「ふぅん、…………ちょっと見せて。」
ひょこっと、横から雪乃の頭が出てくる。サラリとした雪乃の髪が、私の鼻先をくすぐって…………必死でクシャミの誘惑と戦う。
「………………あら、これなら私も貰ったことあるわ。こっちの湿布はそんなにすぐには効いてこないけど、この薬はけっこう効くわよ。………………『女の子の日』の時にも使うやつだから、望乃夏も多分知ってるんじゃない?」
「どれどれ?」
と、私も覗き込むと、見覚えのある薬の名前。
「………………ただ、この薬強いから…………食後になってるけど、ほんとに寝る前に飲んだ方がいいわ。」
「え、そんなにすごいの?」
「………………睡眠薬にも使えるんじゃないかってぐらいには、眠くなるわ。そのせいで…………」
と、雪乃がそこで言葉を切る。…………雪乃、さっきから顔赤いけど………………もしかして、
「………………ぐっすり寝すぎてお布団に世界地図でも書いた?」
「そ、そんなわけないでしょ!?………………小二で卒業したし……」
「え、雪乃って」
「い、今の忘れなさいっ!!」
後ろから雪乃の左スパイクが飛んできて、私の後頭部を直撃する。
「…………あっ、ごめん…………なさい。」
「イテテテ……………………雪乃は自分のスパイクが殺人兵器だってこといい加減自覚してよ…………」
………………まだ目の前を星が回ってる…………。
「ご、ごめん………………つい…………」
「……………雪乃の秘密が聞けたから、今回は許す。」
「そ、それは忘れなさいよ!?でないと…………」
「…………大丈夫、みんなにはばらさないから。」
「…………ほんとね?」
「いや、ほんとほんと。………………で、ホントのとこ、雪乃はこの薬嫌いなの?」
雪乃は、半分諦めたようにため息をついて話し始める。
「…………中等部の頃ね、効き目が強すぎて授業丸々1つ寝過ごしちゃったのよ。それからは量を減らしてもらって寝る前に飲むようにしてるわ。」
「なんだ、そんなことか…………。」
「そ、そんなことって…………」
雪乃が膨れる。
「………………いや、ボクなんかさ、移動教室無い時はホームルームの時間からお昼までずっと机で寝てる時あるよ?」
「………………それでよく星花来れたわね…………しかも成績も…………」
雪乃が呆れたような目で見てくる。
「そ、それはともかく。」
話を強引にずらす。
「今まだ3時前なんだけど………………今から帰っても早いし、何か買ってく?」
「…………そうね、せっかく学園の外に出たんだし………………色々と見て回りましょうか。」
「なら、決まりだね。」
そっと、痛めてない方の左手で雪乃の手を握ると、雪乃もまた握り返してくる。
「………………って、その前に薬貰ってこないと。」
「そ、そうだった…………。」
………………ダメだ、雪乃といると優先順位がバラバラになってく…………。
でもまぁ、いっか。