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カーテンの向こう。―望乃夏

「うぅ………………痛い…………」

「………………全く、無茶するんだから。」

つつかれた肩が、ズキズキと痛む。………………バレないと思ったのに、やっぱり雪乃は誤魔化せないな。

雪乃が立ち上がって、救急箱を探しに行く。………………もう、雪乃は大袈裟だなぁ。

すぐに戻ってきた雪乃の手には、救急箱と湿布が握られてた。

「………………さ、望乃夏。………………脱いで?」

「……………………へ?」

「ほら、早く。」

と、雪乃が私のベストに手をかける。

「わ、ちょっ、こ、こんな所で/////」

「な、ななな何を想像してんのよバカッ!!」

雪乃の左スパイクが肩に炸裂して、私は七転八倒する。

「あっ、ご、ごめん望乃夏…………」

「ほ、骨折れた………………かも…………」

かつてない痛みで、顔から出るもの全部出てる私は、痛みを堪えながら立ち上がる………………ゆ、雪乃に殺されるかと思った………………。

「………………ごめんなさい。」

と、雪乃に手を引かれてベッドに腰掛ける。

「………………ひどい顔になっちゃったわね。」

雪乃が後ろ手にカーテンを閉めながら、私を眺める。

「ゆ、雪乃の、せいだから…………」

「………………それは、ごめん…………」

雪乃からティッシュを貰って、一通り顔を整える。…………………………雪乃の泣き顔は見たくないって言った本人が雪乃に泣き顔を見せちゃうとはね………………ホントに、情けないな。

「………………どう、落ち着いた?」

「………………ん、まぁ…………」

「………………そう…………なら、肩の様子を見るから、早く脱いで。」

………………最初からそう言ってよ………。そう思いながらブレザーを脱ぐと、右腕を抜く時に痛みを覚える。…………あ、これマズイかも…………

「………………望乃夏、もしかして脱げない?」

「………………そう、みたい…………」

「………………手伝うわ。」

雪乃に手を貸してもらって、その下のベストまで脱ぐ。そしてワイシャツのボタンを雪乃に外して貰ってるんだけど………………

「………………雪乃、息荒いよ…………」

「だって………………」

………………下の方はスムーズに外してたのに、上の方になると途端に手が止まって荒い息になる雪乃。

「……………………もしかして、ボクを脱がすっていうシチュエーションに興奮してる?」

「なっ/////そ、そんな訳ないでしょ…………」

「………………変態ゆきのん。」

「う、うるさいわねっ、外せばいいんでしよっ!!」

そう言うが早いか、雪乃はテキパキとボタンを外してワイシャツを押し開く。

「………………邪魔だからこれも外しましょ?」

「ブ、ブラはやめてっ!?それに取らなくてもなんとかなるでしょっ!?」

「………………冗談よ。」

………………冗談で肌との隙間に指突っ込まないでよ………………。

この時、初めて私は自分の肩の様子を見た。

「………………こりゃ痛いわけだ…………」

「…………内出血してるわね。望乃夏、肩の様子を見たいから曲げ伸ばししてみて。」

言われた通り、肩を回したり曲げ伸ばしして見せる。

「こ、これ以上は無理やりなら上げられるけど…………」

「………………下手するとレントゲンものね。手の痺れとかはない?」

「う、うん………………感覚も、ある。」

「ちょっと試すわね。」

と、雪乃が手を取って握手する。…………雪乃の握力フルパワーで。

「ぎえっ、ゆ、雪乃…………潰れちゃうっ…………」

「………………神経は大丈夫そうね。」

「そ、そんな試し方しないでよっ!!」

………………更に痛くなってきた…………。

「………………とりあえず、整形外科で見てもらいましょ。私にはこれ以上は分からないから。………………私の行きつけは腕のいい先生がいるから。」

「わ、わかった…………それで、雪乃………………き、着せて?」

雪乃がため息をついて、

「………………もう、しょうがないわね。」

と、雪乃がワイシャツに私の袖を通していく。

「…………右手は、先生に見せるから通さないでおくわ。」

「ありがと、雪乃。」

私の目の前でひょこひょこ動く雪乃の頭が、急に愛おしくなって。思わず自分の胸に抱きすくめる。

「ふ、ふががが、のの、かっ」

「………………雪乃が、無事でよかった。」

『あの日』の記憶がフラッシュバックして、どんどんと冷たくなっていく雪乃の身体は今でもこの身体が覚えてる。…………このまま死んじゃうんじゃないかってぐらい、奥底まで冷えきった雪乃に寄り添って、温めて。………………雪乃は、『戻ってきた』。

「ほんとに………………よかった。」

「もが………………」

抱きしめる雪乃の熱が、ほんのりと高まってく。………………そして暴れていた雪乃が、大人しくなっていって。

「雪乃、好き………………。」

「…………私も、望乃夏が、好き。」

胸から顔を上げた雪乃が、とろんとした目で返す。

「………………痛み止め、貰うね。」

そう言うと、雪乃も黙って顔を寄せてくる。

くぐもった水音が一つ、暖かい保健室に生まれた。

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