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扉よ、開け。―望乃夏

「雪乃っ!?」

雪乃が突然へたりこんで、わなわなと震えだす。

「ど、どうしたの雪乃………………。」

そう問いかけても、雪乃はただ「ここに、いたくない…………出して…………」とうわ言のように繰り返すだけ。その言葉にハッと気がつく。………………そうか、寒さと、鉄の扉が閉まって開かないので………………雪乃の意識が『あの日』に飛ばされてるんだ…………。

「雪乃、大丈夫だからっ。ここに私がいるからっ。」

雪乃の手を握って、目を合わせながら必死に訴えかける。けど、虚ろな目と開かれた口から零れるのは涙と「出して…………」という言葉だけ。

………………まずい………………私の言葉が届いてない………………。私はブレザーを脱いで、雪乃のコートの前を開いて思いっきり抱きつく。

「ほら、雪乃…………あったかいでしょ…………私の心臓の音が伝わるでしょ…………雪乃、雪乃は、もう、1人じゃ、ないんだよ………………。」

思いっきり抱きしめて、冷えていく雪乃に私の体温を分け与える。…………お願い、雪乃。………………戻って、きて…………。

「雪乃、ここは暗い体育倉庫なんかじゃないよ…………私の腕の中だよ………………ほら、私がいるから、1人じゃないんだよ………………」

「………………ひとりじゃ、ない?」

「そう、2人だよっ。」

初めて、他のことをつぶやいた雪乃。…………もう一息っ。

「そうだよっ。…………ほら、あったかいでしょ………………雪乃は、寒くないんだよっ…………。」

さっきよりももっと、身体を密着させる。ほんのりと、雪乃の身体からも体温が感じられるようになっていく。

「………………さむく、ない。あった、かい………………ひとりじゃ、ない。…………ふたり…………」

「そう、そうだよっ…………」

雪乃の目に、光が戻ってくる。

「………………のの、か………………?」

「そう、そうだよっ、雪乃っ。」

やった、雪乃が戻ってきた。あまりの嬉しさに、思わず雪乃の冷たいほっぺにキスをする。

「…………ののか。」

まだ、ぼーっとしてる雪乃にコートをしっかりと着せる。…………うへぇ、雪乃から離れたら寒くなってきた。慌てて、脱ぎ捨てたブレザーを着る。

「………………望乃夏、私、『また』…………?」

「………………うん、フラッシュバックしてたね。」

雪乃が、一瞬で真っ赤になって俯く。

「……………………ごめんなさい…………また、望乃夏に迷惑かけちゃって………………」

「………………気にしないでよ。こうなるなるなんて、誰にも予想出来なかったんだし………………。」

そのまま俯いてた雪乃だけど、急に慌ててスカートを捲りあげる。

「ゆ、雪乃っ!?…………大丈夫だからっ、………………出てなかったからっ!!」

「そ、そう………………」

二人して、かぁぁ、と真っ赤になる。………………水色の、フリル、か。

「…………さて、どうしよう…………」

気を取り直して、2人で鉄の扉を眺める。

「………………とりあえず、助けを待つしかないわね。」

と、そう言う雪乃の顔は白くなってきてて………………まずい、早くしないと………………私も、意識が薄くなっていく。

すると、目の前で雪乃がそわそわし始める。………………私のリミッターも、そろそろ危ないかな?

「………………雪乃、ものは相談なんだけど………………そこに雨水の排水口が」

「い、嫌よ!!」

雪乃が打って変わって真っ赤になる。………………だよねぇ。ちなみにボクも嫌だ。

「………………なら、早いとこ開けて脱出しないとね。」

扉の前に立つと、試しに蹴り飛ばしてみる。………………ガン、といい音がして、私も足を抱えて悶絶する。………………わ、わかってたけど、い、いたいよぉ………………。

「…………望乃夏、何してるのよ…………そんなんで開くなら、最初からやってるわ…………」

雪乃に呆れた目で見られる。

「…………いや、こうやってすごい音を立ててれば誰かしらが見つけてくれるんじゃないかって…………。」

「…………そ、そもそもこの扉が、内側からちゃんと開くのかしら…………」

「…………ま、ダメだったら仲良く排水口に」

「だからそれは嫌よ!!」

「なら手伝って。」

助走をつけて、扉にタックルをかます。肩から嫌な音が聞こえたけど、そんなの気にせずにまた助走を付けるために離れる。

「…………望乃夏、それじゃ肩壊すわよ。…………見てて。」

と、雪乃が左手で扉をガンガンと殴る。私も、それを見て扉を叩くのに加わる。

「………………助け、来るかな?」

「………………どうかしらね、昨日は用務員さんが来たけど。」

何回か叩いていると、扉の向こうが急に慌ただしくなる。

「…………大丈夫か、今開けるから、離れてろ。」

「………………用務員さんの声ね。」

それから数秒と経たずに、鉄の扉が私たちの方に開く。

「おい、大丈夫だったか………………っておい、どこ行くんだ!?」

「すいません、後で答えますっ!!」

私と雪乃は、開いた扉の向こうに一直線に駆け込む。

「雪乃っ、ここから一番近いのって」

「そ、そこよっ。」

徒競走なら一番になれそうなスピードで、私たちは『ゴール』へと駆け込んだ。

こんなんばっかでほんとスイマセン…………

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