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屋上とおしるこ。―雪乃

……………………うまく、撒けたかしら。

私は背後を確かめながら、後ろ手に屋上のドアを閉じる。………………うう、寒い………………。コート持ってきといてよかった。

殺風景な屋上に立つと、北風が私に吹き付ける。灰色の空が、どんよりとした雲を引き連れて今にも泣き出しそう。

少し待つと、屋上の扉が遠慮がちに開く。

「………………尾行は、ちゃんと撒いてきたんでしょうね?」

「………………うん。旧校舎も通ってこっそりと来た。」

「………………そう。」

私は、小脇に抱えていた缶を望乃夏に投げてよこす。

「うわっととと。…………雪乃、投げる前に一言言ってよ…………。」

「ご、ごめん…………。」

…………それでもナイスキャッチするんだから、望乃夏も案外運動神経はいいのかしらね。

屋上テラスのベンチに2人で腰掛けると、私は昼前に買い足したのも含めておにぎりやパンをベンチの上にガサリと空ける。

「………………んーと、ボクはこれとこれ。」

望乃夏がおにぎりを2個取るのを見て、取りかけていたパン2つをベンチに戻して私もおにぎりを2つ取る。

「………………雪乃は、もっと食べないの?」

「………………あら、望乃夏が先に取っていいのよ?」

「いや、いいよ………………そうだ、せーので、2人とも取ろ?」

「………………そうね。それもいいかも。」

「じゃあ………………『せーの』っ」

伸ばした手は、迷わずウィンナードッグを掴む。………………同時に、望乃夏の手も同じのを掴む。

「「あっ………………」」

お互いに顔を見合わせると、二人同時にパンから手を離す。

「…………の、望乃夏、食べなさいよ。」

「い、いやいや、雪乃の方が早かったから…………。」

しばらくの間譲り合いが続いて、結局このパンは2人とも諦めることにした。

「じゃあ私はこれね…………」

と、私がジャムパンを取ると、

「………………ならボクはこれ。」

と、望乃夏が干しぶどうパンを手にする。

「じゃ………………食べましょっか。」

二人並んで座って、同時に缶のフタを開けて中身を飲む。………………やっぱりちょっと、冷めてるわね。

「………………しかし、自販機に缶入りのおしるこがあったとはね………………いや、そういうのがあるってのは知ってたけど、まさか星花の自販機にまで入ってるとは………………。」

「あら望乃夏、気づかなかったの?」

「自販機のある方にはそんなに行かないからね。」

「………………ふぅん。」

出口につまりかけた白玉を吸い込むと、底に溜まってた小豆がごっそりと流れ込む。

「………………これさぁ、お椀か何かに空けた方が食べやすいんじゃ…………」

「………………これ、私のお気に入りなの。」

ボソリと呟いたその言葉に、望乃夏は続きを言えなくなる。

「………………なんか、ごめん。」

「あら、いいのよ別に。」

私はさっさと飲み終わって、おにぎりへと手を伸ばす。…………あら、具がないわね。塩むすびかしら。

「………………雪乃って、おにぎり好きなんだね。」

「………………そうね、基本お米が好きだけど、いろんな味があって手軽に食べられるから好きよ。」

はむっ、と二口目に齧り付くと、強烈な酸っぱさに顔をしかめる。…………具が下の方だったのね、油断してたわ。

「…………今度は、おにぎりにしようかな…………」

「あら望乃夏、何か言った?」

「いや、何も。」

…………気のせいかしら。

その時、猛烈な風が私達に吹き付ける。思わずコートをぎゅっと握ると、その風は私達を通り越して屋上への扉を揺らす。

鉄の扉がバタンと閉まる音に、私は青ざめて駆け寄る。そしてノブを回して押したり引いたりするけど…………ドアは、開かない。

「雪乃っ!!」

望乃夏も駆け寄ってきて、2人で扉を引くけれど…………ドアは、微塵も動かない。

「………………前々から立て付けが悪いとは思ってたけど…………まさかこんなことになるなんて…………」

私の身体に寒さが突き刺さって、ドアの閉まる音が私の頭に何度もフラッシュバックする。…………………………い、嫌だ、こ、こんなとこ………………

「雪乃っ!?」

望乃夏のその声を最後に、私の記憶は過去に引き戻される。

い、いや、だ………………

モウ、こんなトコろ、居タクなィ……………

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