表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/152

うわさ。―望乃夏

雪乃と別れて教室に入ると、待ち構えていた安栗さんに早速捕まる。

「やぁ、墨森ちゃん。…………で、『秋菜』の様子はどう?」

周りを気にしながら声を潜める安栗さん。

「………………うん、今は、落ち着いてる。…………部活の方は、もう少し考えるみたい。」

「…………そうか。………………無理強いはしないけど、うちには『秋菜』の力が必要なんだ。」

「………………でもそれって、バレー部の都合だよね?」

何度も聞いた『必要』という言葉にひっかかりを覚えて問い返す。

「………………まぁ、な。事実雪乃のことをよく思わない奴らもいるにはいるけど、それでも大多数は雪乃を必要としてるのは確かだ。」

「………………そうやって、雪乃をまた苦しめるの?………………雪乃は、『利用されるのは嫌』って言ってた。」

安栗さんはその言葉に少し驚いた様子だったけど、すぐに立ち直って、

「…………『利用』か。確かにそうかもな。雪乃の実力――特にあのスパイクは、はっきり言って高校生では右に出る奴はいない。だからこそエースに抜擢されたわけだけど………………ぶっちゃけ、私らは雪乃に頼りっきりだったのもあるよなぁ。だからこそ不満を持つ部員が出てきたわけだし。」

安栗さんの話を、私は静かに聞いていた。

「………………確かに、今の私らは雪乃を『利用』して勝ち進もうと考えてる節もあった。求められれば素直に動く雪乃を見ているうちに、何でも頼むようになってたし。………………いつの間にか、雪乃のことをチームメイトじゃなくて、キリングマシーンとして見てたのかもしれない。」

「そ、そんなの…………ひどいよっ。」

思わず椅子を蹴って立ち上がる。

「す、墨森ちゃん落ち着いてっ。」

慌てた安栗さんに押し留められて、また席につく。

「………………ふぅ。今は墨森ちゃんも雪乃と同じぐらい注目されてるってこと、忘れちゃダメだよ?」

「え、何それ初耳なんだけど。」

「………………あのさ、女子ネットワークなめてない?一昨日のお風呂でのことなんて、その日のうちに高等部のほとんどが知ってたんだからね?」

「そ、そうなの………………?」

かぁぁっと、顔が熱くなる。

「………………それにさ、土曜日の練習の時、雪乃がどこか嬉しそうにしてたんだよ。これは珍しいってみんなで噂してたら、その翌日にはあの事件。これはもしかして………………ってヒソヒソ話してたとこに、昨日の一件だもん。今のバレー部は雪乃と墨森ちゃんの話で持ちきりなんだよ〜」

…………え、そう、なの……?

「………………で、根掘り葉掘り聞いてこいってみんなに頼まれてるの。と、言うわけでその辺教えてもらえるかな?」

いつの間にか教室中の…………いや、教室の外からも…………視線が、私たちに集まる。ちょ、ちょっと………………

「だ、誰が教えるもんか…………雪乃との、ことなんて………………。」

「そこを何とか、ね?」

と、頭を下げて頼まれるけど、

「も、もう………………それに仲良くなったのなんてついこの間だし…………。」

「ほほう………………」

安栗さんの目がキラリと光って、周りからはヒソヒソ話とキャーという黄色い声。………………あ、しまった。

その時、ちょうど鐘が鳴る。

「………………あら残念。じゃあこの続きはまた後で。」

と、安栗さんは自分の席に戻っていく。それと同時に人混みも解けていくけど、時折「もうキスはしたのかしら」とか「最近はお風呂も一緒よ」とか、私達の噂が聞こえてくる。

………………うう、雪乃、助けて…………。


一時間目が終わってトイレに立つと、入口の所で雪乃とばったり会う。

「あ、望乃夏………………」

「雪乃………………」

し、視線を感じる………………

「………………望乃夏、お昼休み、屋上に来て。」

と、小声で雪乃がすれ違いざまに耳打ちしていく。私は、バレないように小さく頷いて返す。

………………屋上、か。バレずに逃げ出せるかな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ