櫛とおにぎり、メロンパン。―雪乃
望乃夏の入れてくれた暖かいコーンスープに至福の時を感じている間にも、時計はチクタクと進んでいく。
「…………って、早く食べないと遅刻するわ。」
「いいんじゃない?パンなら咥えながら行けるし。」
「マンガじゃないんだから………………というか、そうだとしたら曲がり角で私が待ち構えててぶつかればいいのかしら?」
ちょっと目をキラキラさせながら聞くと、望乃夏が、
「いや、そこまではいいかな…………」
と目を逸らす。
「…………まぁ、それは置いといて。望乃夏から好きなの取っていいわよ。」
「え、いいの………………?じゃ、じゃあ………………」
望乃夏が手に取ったのは、メロンパンとおかかのおにぎり。
「あら、それだけでいいの?」
私はあんぱんと塩むすび、ツナマヨ、梅、ジャムパンを手に取る。…………余ったスティックパンは後でおやつにしましょ。
「………………むしろ朝からそんだけ食べられる雪乃がすごいって………………そんなんだからぷにっと」
「望乃夏。」
………………その先は言わせないわよ?
望乃夏は、慌てておにぎりのビニールを外してかぶりつく。…………もう、私はそんなにぷよぷよしてない………………してない、はず…………。
………………やっぱり朝ごはん少し減らそうかしら。
その事は置いといて、私はあんぱんの封を切ってかぶりつく。そして3口で全部口に収めてコーンスープで流し込んで、ツナマヨおにぎりに手を伸ばしてこれも2口で食べ切る。次のおにぎりに手を伸ばそうと視線を上げると、
「…………望乃夏、なにぼーっとしてるのよ。」
「いや………………雪乃って見かけによらず豪快な食べ方するんだなって。」
「ご、豪快って………………」
地味に傷つく。
「………………朝練の時からの癖よ。早く食べて身体を解さないといけなかったから。」
「ふーん。………………でもさ雪乃。早食いは………………太るよ?」
「にゃっ!?」
思わず制服の上からお腹を触る。………………ま、まだ摘めるほどないから大丈夫ね!?
「も、もう、望乃夏、いきなり何を言い出すのよ………………。」
「………………まぁ、どんなにぷにっとしても、横に大きくなったとしても、ボクは雪乃のこと好きだけどね。」
「なっ/////……………………い、いきなり何言い出すのよ、バカっ/////」
鼓動が早くなって、なんだかもう食べる気がしなくなる。
「ああもう…………望乃夏、これあげるわっ」
と、望乃夏に塩むすびとジャムパンを投げて私は立ち上がる。そして、カバンを引っ掴んでドアのところに立つ。
「何してるの、置いてくわよ。」
「ええっ、雪乃…………まだ早いよ…………。」
「い、いいのよ、もう………………。さ、早く……………」
「そ、そうは言っても…………雪乃も髪、ボッサボサだし…………せめて髪結ばせてよ…………。」
そう言われて頭に手を置くと、確かに寝癖が付いてる。
「………………そうね、整えてからにしましょ。」
ドレッサーの前に座ると、櫛で髪を整えていく。…………ダメね、直んない。
すると、突然頭の上から霧吹きで水がかけられる。
「はい、そのまま動かないで。」
「の、望乃夏…………びっくりするじゃない、もう。」
「ごめんごめん。…………えーと、結ばなくていいんだっけ?」
「…………そうね、体育の時には自分で結ぶから。 」
スッスッと、望乃夏が私の髪に櫛を入れていく。
「はい、こんなもんかな。」
「ありがと、望乃夏。」
気を取り直してカバンを手に取ると、望乃夏も準備万端で待っていた。
「さ、行こっか。」
望乃夏が、扉を開けた。