買い出し。―雪乃
差し込む朝日が、優しく私達を照らす。私はいつも通り目覚ましの頭を叩こうと手を伸ばして………………見事に空ぶる。あら………………?
布団から軽く身体を起こすと、見慣れない景色が飛び込んでくる。
………………そっか、今日は望乃夏の布団で寝てたんだった。そのせいか、私のベッドで目覚ましがけたたましい音を立てる。………………んもう、煩いわね。止めに行こうと立ち上がろうとして………………何かに引っかかって止まる。後ろを振り返ると、私のパジャマの裾は望乃夏にがっしりと掴まれていて………………。無理に引っ張ったらビリっといきそう。
けたたましく鳴る目覚ましと、望乃夏をしばし見比べる。…………そうね、望乃夏起こすのも悪いし………………。
パジャマを上だけ脱いで、目覚ましを止めに行く。…………うう、寒い………………。
けたたましい音を止めると、この後どうしようか悩む。………………朝練に出るのは気が重いし、かと言ってまた布団に入っても、染み付いた習慣のせいで寝れないし。
………………そうだ、そういえば朝ごはん買ってないわ。私は素早くジャージに着替えて、その上からコートを羽織る。そして、そうっと部屋の扉を開けて、コンビニへと向かう。
………………何にしようか、迷うわね。
そもそも望乃夏は朝ごはん食べない方だから、パン派なのかごはん派なのかも分かんない。………………とりあえず、おかかと塩むすびと梅、ツナマヨを一つずつ取る。…………そうね、パン派だったときの為にパンも買っておきましょ。
とりあえず定番のあんぱんとジャムパン、メロンパンとスティックパンをカゴに入れる。…………………食べきらなかったら間食ね。後は牛乳………………あら、売り切れ。しょうがないわね………………。飲みものは諦めて、私は籠の中身をレジに渡す。………………それにしても朝食代が一番高いのってほんと不思議ね。
少しだけ軽くなった財布をしまって、望乃夏の待つ寮の部屋へと帰る。
扉を開けると、望乃夏はまだ寝息を立てていた。しかもその手には私の脱いだパジャマの上がしっかりと抱きしめられていて………………もう、遅刻するわよ。
「望乃夏、早く起きなさい…………」
ユサユサと揺さぶってみても、望乃夏は起きる気配がない。
「………………もう、早く起きないと………………。」
私は、目をつぶって望乃夏に覆い被さる。くぐもった水音が一つ、静かな部屋に響いた。
………………え、こ、これでも起きないの………………!?
アワアワと慌てる私を前にして、望乃夏は相変わらず夢心地。ぷちん、と堪忍袋が切れた音がする。望乃夏の布団を引っぺがして、その背中に左手でスパイクを打ち込む。
「望乃夏っ、早く起きなさいっ!?」
バシーンと物凄い音が響いて、望乃夏が飛び上がる。
「な、何、雷!?爆発!?………………あ、雪乃………………おはよ。」
「……………………何が『おはよう』よ………………」
ワナワナと震える私を前にして、望乃夏が後ずさる。
「………………私のおはようのキスを受けてもまだグースカ寝る望乃夏には、ほんっとに尊敬するわっ!!」
「え、あれ夢じゃなかったの…………」
なんて寝ぼける望乃夏に、私は怒る気も失せて呆れ返る。
「ああもう………………ほら、朝ごはん買ってきたから着替えて早く食べなさい。」
と、望乃夏の前にビニール袋を置く。
「…………望乃夏、朝食べないんだったわね。それでも食べるとしたらパン派ごはん派どっち?」
と、聞くと、
「………………雪乃派。」
「………………ぶっ飛ばすわよ?」
と、もう一度左手に力を込める。
「じょ、冗談だって。」
「………………言っていい冗談と悪い冗談があるわよ?」
………………全く、もう。私は壁の制服に手をかけて、望乃夏の起きるのを待つことにした。