寝れない。―雪乃
「こ、今度こそ本当に消すわよ…………」
私は、望乃夏が布団に入ったのを見て壁のスイッチを押す。
………………全く、望乃夏が変なことするから…………今夜は眠れそうにないわね。望乃夏の隣に潜り込むと、ぎし、という音がしてベッドが沈む。
「…………ベッド壊さないでね?」
「し、失礼ねっ!?」
そんなに重くないからっ!?
………………あーもう、すっかり目が冴えちゃったじゃないの。
「………………望乃夏のバカ。」
「…………なんで?」
「………………目が冴えちゃって、眠れそうにないの。」
「…………そう?ボクなんかはもう、気を抜いたらそのまま寝ちゃいそうな勢いだけど。」
「………………どんな神経してるのよ。」
………………望乃夏と一緒のベッドで隣に寝るようになってから、私の睡眠時間が確実に2時間ぐらい減ってる気がする…………。道理で日中も眠いわけだわ。
「………………寝れなそうなら、耳元で昔話でもしてあげよっか?」
「こ、子供扱いしないでっ」
「………………ならつまんない話でも。」
「………………眠気は起きるかもしれないけど、どんな話よ…………。」
「化学の発展について3部作ぐらいで」
「………………遠慮しとくわ。」
………………望乃夏が必死で講義してるとこなんて見たら、益々寝れなくなりそうだもの。
「………………なら、どうするのさ。」
ぷくーっと膨れた望乃夏をつっつきながら考える。
「………………そうね、抱き枕でもあれば落ち着くかもしれないんだけど…………。」
何の気なしにチラリと横を見る。………………けど、望乃夏は何を勘違いしたのか、
「ど、どうぞ………………」
と、腕を広げて待ち構える。
「よ、余計落ち着けないわよこんな抱き枕っ!?」
………………せ、背中に抱きつくのなら何回かやったことあるけど………………。ま、前と前は………………ごふっ…………
私の頭の奥から、とろりとしたものが鼻を伝って流れ出す。
「わっ!?ゆ、雪乃、鼻血出てるっ!!」
慌てて二人で飛び起きて、望乃夏が電気を点けに行く。………………ゴンとかガスッとかチーンとか物騒な音がしてるけど大丈夫なのかしら。
ようやく部屋の明かりがつくと、望乃夏はティッシュを持ってきて私の鼻に詰める。
「………………そのまま下向いて、小鼻を摘んで考える人のポーズ。」
言われるがままに謎のポーズを取らされ、そのまま固定される。
「ふぉ、ふぉのくぁ、…………ふぉれにゃんの意味ぐぁ…………。」
「………………はい、喋らないで。………………『の、望乃夏、これなんの意味が…………』ね。鼻の粘膜は血管が沢山あるくせに切れやすいから、こうやって圧迫しておけば10分ぐらいで止まるの。」
…………ふーん、なるほどね。
「………………それにしても、なんか雪乃の顔…………ぷっ、ごめん……おもしろ…………ぷぷっ」
望乃夏が必死に笑いをこらえるのを見て思わず立ち上がる。
「ま、まだ座ってて…………ごめんごめん、殴るなら後でっ…………。」
………………むー、なんか調子狂うわね。
「………………とりあえず、服も布団も無事だね。雪乃の顔は無事じゃないけど。」
望乃夏がまだ濡れたままのお風呂タオルを持ってくる。
「………………そろそろ止まったんじゃない?」
鼻栓を引っこ抜くと、奥の方は真っ赤に染まってるけど、下までは流れてきてない。
「…………大丈夫そうだね。」
と、望乃夏が濡れタオルで私の顔を拭く。
「………………何から何まで悪いわね。」
「ううん、別に。」
………………はぁ、散々な夜ね。
「さて、気を取り直して寝ましょうか。」
今度こそ、布団を被って部屋の明かりを落とした。