『好き』のレベル。―望乃夏
「あ、待ってよ雪乃っ。」
私を置いてスタスタと歩いていく雪乃。慌ててタオルを持って雪乃のあとを追う。カラカラと扉を開けて、先に脱衣場へと上がった雪乃を追いかけて私も脱衣場に足をかける。
「もう、雪乃。置いてかないでよ。」
「それは望乃夏が遅いだけよ。」
と、バスタオルを緩めに身体に巻き付けた雪乃が答える。
「いや、雪乃がスタスタ行っちゃうのが悪いんだって。」
「…………ま、それはどうだっていいでしょ。」
と、雪乃が脱衣カゴに手を伸ばすと、バスタオルの結び目が解ける。当然そうなると…………ストンとタオルが落ちて、雪乃が、つま先から真っ赤になっていく。
「の、望乃夏っ、見ないでっ!?」
「あわわっ!?」
慌てて自分の分の脱衣カゴを引っ掴んでロッカーの向こう側に行く。そこで服を身につけ始めたけど………………雪乃の身体が、ほわーんと頭の中に浮かび上がって…………その度に服を着るその手が止まる。
「………………望乃夏、終わった?」
ひょこっと、ロッカー越しに遠慮がちに覗く雪乃の顔。
「はわわっ!?ま、まだだからっ!?終わったらそっち行くから、待ってて!」
雪乃の顔が、さっきの身体と重なって……………頭の奥から、たらり、と何かが流れ出しそうになる。………………ボ、ボクは一体何を考えてるんだ!?………………ゆ、雪乃に、欲情、するなんて………………。
のろのろと服を身につける間、雪乃に何回ものぞき込まれて…………その度に、頭の中から雪乃を振り払ってた。
「………………もう、服を着るだけでなんでこんなに時間がかかるのよ…………」
………………まさか、雪乃の裸がチラついてました、なんて正直に答えるわけにもいかずに、その度に謝って雪乃に膨れられる。………………うう、全部雪乃が悪いのに………………。
部屋の扉を開けると、雪乃が早速私のベッドにダイブする。
「………………もう寝るの?」
「………………早寝早起きの習慣って、なかなか治せないものなのよ…………。」
と、私の枕にうつ伏せに顔を埋める雪乃。
「………………もう、枕の臭い嗅がないでよ。」
「し、失礼ね………………私はそんな変態じゃないわ。」
………………その割にほっぺたが赤くなってるみたいだけど?
「いやいや、まだ寝るには早いよ。…………ちょっと紅茶入れてくるね。雪乃も飲む?」
と聞くと、雪乃は、
「………………私はレモンティーの方でお願い。………………また寝れなくなったり、夜中に起きるのはもうこりごりよ…………。」
「……………それは雪乃の身体と心の問題じゃない?」
と混ぜっかえすと、
「う、うるさいわねっ………………作るなら、早く作って持ってきなさいっ!」
と雪乃に怒られる。ふふっ、雪乃は地が出た時が一番可愛いんだから。
「…………はい、持ってきたよ。」
と、雪乃の前にカップを置く。
「…………望乃夏が朝弱いのって、多分寝る前のティータイムのせいだと思うわよ?」
「そ、それは言わないで………………。」
………………自分でも薄々そう思ってるけどさ。
「………………もうこんな時間。望乃夏が遅いからよ、もう…………。」
なんてブツクサ言う雪乃に、ちょっとイラッとする。
「………………雪乃のせいだからね、それ。」
「………………何よ、文句あるの?」
「………………さっきからずっと、頭をチラついて離れてくれないんだよ。………………火照った雪乃の、全身像が。」
一瞬で雪乃が沸騰する。
「の、望乃夏、ずっとそんなこと考えてたの!?」
軽蔑するような目で睨んでくる。
「しょ、しょうがないじゃん!!…………………………雪乃のこと、好きなんだもん。」
一瞬で沸騰する私の脳みそは、もうまともな判断ができなくて。雪乃に掴みかかって、床に組み伏せる。
「……………………ごめん。自分がオカシイって、ボク自身でも分かってるけど………………もう、止められないかもしれない。」
「のの、か………………。」
「………………雪乃はさっき、自分を支えてるのはボクだけって言ったよね。…………実は、ボクも、最近雪乃のことしか考えられないんだ…………授業受けてても、雪乃ならこんな解き方するかな、とか。お昼休みになると、今頃雪乃はどうしてるかなぁ、とか。………………ボク自身も、雪乃色に染められてるんだよ………………。だから…………もっと、スキを伝えさせてよ。」
「の、のか…………」
とろんとした目に見とれていると、急にその手に力がこもる。そして、上に乗る私を押しのけてあっという間に体勢が入れ替わる。
「……………………馬鹿なこと言わないでよね。」
冷えきったその言葉とは裏腹に、その目には熱がこもっていて。
「………………私が望乃夏のことを思う方が、強いに決まってるじゃない。」
「…………いや、ボクが雪乃のことを思う方がずっと強いね。」
その後も、どっちの方が強く思ってるのかで押し問答になったけど…………時間が経つうちに、お互いの好きが混ざりあっていくみたいで。時計が一回転する頃には、もうどうでも良くなってた。
「………………なんか、疲れたね。」
「………………そうね。流石にもう寝ましょっか。」
お互いにカップの中身を飲み干して、2人で私のベッドに腰掛ける。
「じゃ、電気消すわね。」
と、立ち上がる雪乃を引き止める。
「…………何よ。」
「ねぇ、膝枕した時に雪乃がボクに言ったこと、覚えてる?」
「………………何のこと?」
「…………わざわざのぞき込んで、ボクのショーツを地味だって言ったこと。………………あれ、結構傷ついたんだからね?」
「ご、ごめん………………」
と、素直に雪乃が謝る。
「でも、どうして今更」
私は、胸元のボタンを外して両手でパジャマを広げる。
「のの、か………………」
「…………悔しいから、今日はちょっと、がんばってみた。」
………………黒の布地に、白のフリルがついたやつ。………………押さえつけるものなんてないけど。
「望乃夏……………………に、似合うと、思うわ。」
雪乃が、横を向いて呟く。
「あ、ありがと………………。」
私もそそくさとボタンを留めて、布団をかぶった。
…………部屋の空気が、微妙な感じになった。




