決心。―雪乃
湯船に身を沈めると、色んなものが滲み出してお湯に溶けていくようで。私は、全身の力を抜く。
やっぱり、お風呂はいいものね。
隣を見れば、望乃夏もだらけきった様子でお湯に浸かって、時折息を吐いている。
「………………望乃夏、親父くさいわよ。」
「…………ひどいなぁ、まだピッチピチの15歳だよ?」
「………………その言葉遣いからして親父よ。」
と、地味にショックを受けている様子の望乃夏をほっといて、砂塚さんの方に行く。
「………………あなたも、のんびりしてると寮監に見つかるわよ。」
「…………やっぱり、マズイの?」
「…………全員の顔は把握してないでしょうけど、こんな時間に出てくのが見つかったらまずアウトね。」
「…………もう上がるわ。」
と、そそくさとお風呂を後にする砂塚さん。………………さて、これでふたりきりね。
望乃夏の方に戻ると、相変わらずのんびりと寛いでた。
「ほら望乃夏、もうちょっとシャキッとしなさいな。」
「………………お風呂の中ぐらい、いいじゃない。」
「………………もう。」
それ以上言うのを諦めて、私もゆっくりと浸かることにした。………………せっかく2人きりなのに、これじゃ興ざめね。
その時、望乃夏に後ろから抱きすくめられる。
「ひゃっ!?」
「………………つーかまーえたっ。」
「の、望乃夏、何して…………。」
「昨日一緒に入れなかった分を、今のうちに補給しとこうと思って。」
「な、なにそれ…………イミワカンナイ!」
望乃夏は拗ねた顔をする。
「だって約束したじゃんさー、これからは一緒にお風呂入るって。」
「そ、それは、そうだけど…………」
「だから、昨日の分もついでに、ね?」
さわ、と私のお腹を撫でる望乃夏。思わず声を漏らす。
「雪乃も、もうちょっと柔らかい身体になってもいいんじゃない?」
「………………無理よ。私には…………これしかないんだから。」
「………………そう。」
少し残念がるように望乃夏が呟いて、腕が私の肩に載せられる。
「…………ま、それはそれとして、さ。………………雪乃、この後どうするの?」
「この後、って………………」
「………………バレー部に戻るの?それとも………………辞めるの?」
「……………………わかんない。みんなは『戻ってきて』って思ってるみたいだけど、それがみんなの本心なのか………………見えないの。みんなの、心が。」
………………正直、戻れたとしてもあんまり戻りたくはない。……………………前は、バレーしか知らなかったから、私の中の『柱』はバレー部とバレーそのものだった。けど………………今の私は、「望乃夏」を『知ってしまった』。………………みんなの裏切りが、それまでの私の中の柱をへし折った今、今の私を支えているのは、望乃夏だけ。だから………………。
「………………望乃夏は、どうすればいいと思う?」
と、背中に向けて問いかける。
「………………雪乃。そんな大事な決定を、ボクなんかに委ねていいの?」
「………………お願い。今の私には、まともな判断ができそうにないの。……………………今、私を支えているのは、望乃夏だけだから。」
「……………………わかった。ボクは……………………雪乃が楽しいと思った方を取ればいいと思うよ。だって、ボクも雪乃の泣き顔、もう見たくないもん。」
その言葉は、私の中に染み込んでいく。………………自分が、楽しいと思ったことを、やれ、ね。
「………………ありがと望乃夏。決心、できそうよ。」
と、望乃夏の手から逃れて立ち上がる。
「…………さ、お部屋に戻りましょ。」
と、望乃夏に手を貸して湯船を後にする。
脱衣場への扉を開ける私の足取りは、さっきよりも軽かった。