表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/152

決心。―雪乃

湯船に身を沈めると、色んなものが滲み出してお湯に溶けていくようで。私は、全身の力を抜く。

やっぱり、お風呂はいいものね。

隣を見れば、望乃夏もだらけきった様子でお湯に浸かって、時折息を吐いている。

「………………望乃夏、親父くさいわよ。」

「…………ひどいなぁ、まだピッチピチの15歳だよ?」

「………………その言葉遣いからして親父よ。」

と、地味にショックを受けている様子の望乃夏をほっといて、砂塚さんの方に行く。

「………………あなたも、のんびりしてると寮監に見つかるわよ。」

「…………やっぱり、マズイの?」

「…………全員の顔は把握してないでしょうけど、こんな時間に出てくのが見つかったらまずアウトね。」

「…………もう上がるわ。」

と、そそくさとお風呂を後にする砂塚さん。………………さて、これでふたりきりね。

望乃夏の方に戻ると、相変わらずのんびりと寛いでた。

「ほら望乃夏、もうちょっとシャキッとしなさいな。」

「………………お風呂の中ぐらい、いいじゃない。」

「………………もう。」

それ以上言うのを諦めて、私もゆっくりと浸かることにした。………………せっかく2人きりなのに、これじゃ興ざめね。

その時、望乃夏に後ろから抱きすくめられる。

「ひゃっ!?」

「………………つーかまーえたっ。」

「の、望乃夏、何して…………。」

「昨日一緒に入れなかった分を、今のうちに補給しとこうと思って。」

「な、なにそれ…………イミワカンナイ!」

望乃夏は拗ねた顔をする。

「だって約束したじゃんさー、これからは一緒にお風呂入るって。」

「そ、それは、そうだけど…………」

「だから、昨日の分もついでに、ね?」

さわ、と私のお腹を撫でる望乃夏。思わず声を漏らす。

「雪乃も、もうちょっと柔らかい身体になってもいいんじゃない?」

「………………無理よ。私には…………これしかないんだから。」

「………………そう。」

少し残念がるように望乃夏が呟いて、腕が私の肩に載せられる。

「…………ま、それはそれとして、さ。………………雪乃、この後どうするの?」

「この後、って………………」

「………………バレー部に戻るの?それとも………………辞めるの?」

「……………………わかんない。みんなは『戻ってきて』って思ってるみたいだけど、それがみんなの本心なのか………………見えないの。みんなの、心が。」

………………正直、戻れたとしてもあんまり戻りたくはない。……………………前は、バレーしか知らなかったから、私の中の『柱』はバレー部とバレーそのものだった。けど………………今の私は、「望乃夏」を『知ってしまった』。………………みんなの裏切りが、それまでの私の中の柱をへし折った今、今の私を支えているのは、望乃夏だけ。だから………………。

「………………望乃夏は、どうすればいいと思う?」

と、背中に向けて問いかける。

「………………雪乃。そんな大事な決定を、ボクなんかに委ねていいの?」

「………………お願い。今の私には、まともな判断ができそうにないの。……………………今、私を支えているのは、望乃夏だけだから。」

「……………………わかった。ボクは……………………雪乃が楽しいと思った方を取ればいいと思うよ。だって、ボクも雪乃の泣き顔、もう見たくないもん。」

その言葉は、私の中に染み込んでいく。………………自分が、楽しいと思ったことを、やれ、ね。

「………………ありがと望乃夏。決心、できそうよ。」

と、望乃夏の手から逃れて立ち上がる。

「…………さ、お部屋に戻りましょ。」

と、望乃夏に手を貸して湯船を後にする。

脱衣場への扉を開ける私の足取りは、さっきよりも軽かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ