枕と雪乃。―雪乃
「ん………………」
ふと目を開けると、まず目に飛び込んできたのは望乃夏の顔。………………そっか、私………………寝ちゃったんだ。
「望乃夏、今何時………………望乃夏?」
下から顔を覗き込むと、規則正しい寝息が聞こえてくる。………………なんだ、寝ちゃったのね。
全く………………枕の方も寝ちゃうなんて、望乃夏らしいわ。
「………………望乃夏ー、早くおきなさーい。………………」
………………起きない…………。よくもまぁ、こんな体制で寝れるわね…………。
「………………早く起きないと、悪戯するわよー………………」
………………起きないってことは、いい、のよね?
ベストの隙間から覗くワイシャツのボタンを、更に2個外してみる。…………ふぅん、こっちも水色なのね。………………って、こんなことされても起きないとか…………どれだけぐっすり寝てるのよ…………。
………………はぁ、なんかドキドキしたら暑くなってきた…………。私はブレザーを脱いで自分のハンガーにかける。すると、ベッドの上に脱ぎ捨てられた望乃夏のブレザーが目に入る。全く、…………だめじゃないの、こんな所に脱ぎ捨てておいたら。シワになるわ。
と、望乃夏のハンガーを手に取って…………望乃夏の本体と見比べる。
………………そうね、このままだとベストもスカートもシワになりそう。だから、きちんと畳んでハンガーに掛けないとね………………。ほ、他に下心は無いんだから………………。
自分にそう言い訳しながら、そっと望乃夏のベストのボタンを外す。…………ぬ、脱がせにくい…………。なんとかベストを脱がせると、ハンガーにかけてその上からブレザーをかける。
あ、後は………………『これ』だけなんだけど………………。と、望乃夏のスカートに手をかける。ホックを外してファスナーを下ろすとこまでは、なんとか出来た。けど………………そこから先が………………。
「………………望乃夏、ごめん。…………ちょっと、倒すね。」
望乃夏の肩に手をかけて、ゆっくりとベッドに引き倒す。………………これでもまだ起きないの…………!?
そのまま、腰を浮かせてスカートを引き抜いて、膝まで下ろして抜く。
……………………し、死ぬかと思った…………。望乃夏のスカートを丁寧に畳みながら、私は乱れた息を整える。
………………それにしても、なんで望乃夏は起きないのよ………………。
……………………そう、何しても起きないって言うなら…………。私の中で、望乃夏への欲望が鎌首をもたげる。
………………あら、メガネを外すの忘れてたわ。半裸の望乃夏の上に覆い被さるようにして外そうと、ベッドに手をついたけど…………その手は、モニュっとした感触を掴む。………………へ?
恐る恐るその手の掴むものを見ると、私の手のひらにすっぽり収まっていたそれは。
(の、望乃夏の、胸………………)
頭の奥から、たらり、と何かが流れ出す。慌ててその手を離して、望乃夏の上から飛び退く。………………こ、これが、望乃夏の………………。自分の左手をじっと眺めて、感触を思い出して顔が熱くなる。
その時、望乃夏が大きく伸びをして、半身を起こした。
「……………………おはよ、雪乃…………。あれ、今日は朝練ないの…………?」
「きゃあっ!?」
思わず悲鳴を上げて飛び退く。……………………や、やっと起きたの………………?
「お、おはようって………………今何時だと思ってるの………………。」
「ん………………」
と、望乃夏は少しの間記憶を辿って………………あ、爆発した。
「ボ、ボクも寝ちゃった上に…………ゆ、雪乃の方が先に起きちゃったんだ………………。」
「………………まぁ、そうなるわね。」
「そっか………………。」
と、感慨深げに頷く望乃夏。その時、望乃夏が小さなくしゃみをする。
「うう、寒………………い…………って、あれ………………」
と、全身を見渡した望乃夏が、悲鳴を上げて布団に潜り込む。
「ひっ………………な、なんでこんなカッコを………………。」
器用に、布団から目だけを出して聞いてくる。………………そうね、さっきからかわれた仕返しといきましょ。
「………………もう、覚えてないの………………。望乃夏ったら、あんなに激しいなんて………………。」
顔を赤らめてモジモジして見せると、望乃夏が目に見えて青ざめる。
「………………望乃夏、責任は、取ってよね?」
と、トドメを刺しにいくと…………望乃夏が布団を跳ね除けて床に土下座する。
「ご、ごめん雪乃っ!!ボク、記憶が無いんだ………………。雪乃にあんなコトやそんなコトをして…………こんなコトを起こして………………ほんとに、どう謝っていいか………………。」
と、本気で謝り始める。………………ちょ、ちょっとやりすぎたかしら………………。
「望乃夏、顔を上げて………………じょ、冗談、だから………………」
「…………………………へ?」
「………………望乃夏、壁を見て。」
「ん?………………あれ、制服が………… 」
「………………私が畳んだのよ。このままだとシワになるから………………ぬ、脱がせるの、大変だったんだから。」
少しの間、望乃夏は私と制服を見比べて………………また土下座モードになる。
「こ、今度は何なの!?」
「ごめん雪乃……………………手間、かけちゃって………………。」
「そんなことで土下座しないでよ、もう。………………気にしないで、ただ『枕カバー』を外しただけよ。」
「『枕カバー』……………………。」
残ったワイシャツを見て、望乃夏がつぶやく。
「………………だよね、抱き枕には丁度いいよねー…………円筒形で掴むとこないから抱きやすいよねーハハハ。」
望乃夏が死んだ目になる。
「…………そ、そんなことないわよっ、ちゃんと掴めた…………し…………」
あっ、言っちゃった…………。
「………………掴めたって…………。」
一転して、今度は私が青ざめる。望乃夏は一転して、今度は赤くなってわなわな震えだす。
「あ、あれは夢じゃなかったんだ……………………。」
「そ、その…………」
「ゆーきーのー?」
「ひっ、ひぃ…………」
望乃夏の迫力に負けて、私は情けない声を出して後ずさる。
「……………………雪乃も、後で同じ目に遭わせてやる………………。」
の、望乃夏、目がマジになってるわよ………………。
「と、とりあえず、お風呂行かない………………?」
ん? と腕時計を確かめた望乃夏は青ざめる。
「も、もう九時前じゃない…………。」
「………………だって、望乃夏枕が気持ちよかったんだもん………………。」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、早くお風呂行かないとっ。」
と、クローゼットと格闘し始める望乃夏。私も手早く寝巻きと下着を取り出して望乃夏を待つ。
「さ、雪乃、行くよ。」
「あ、待って…………望乃夏は下履いてっ!?」
「あっ………………」
………………危なかった、危うく望乃夏が変態になるとこだった………………。
数十秒の後、私達はお風呂場へと猛ダッシュした。