表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/152

決別。―雪乃

目覚ましが鳴る前に、アラームを止める。いつもと同じ動作だけど、今日だけは違った。

身体を起こそうとすると、私に絡みついた望乃夏がそれを邪魔する。………………もう、私は抱き枕じゃないのに。全身で抱きついて、しかも私の胸元に顔をうずめてる。………………もう、望乃夏、赤ちゃんみたいなんだから。

でも、今日は名残を惜しんでる場合じゃないの。ごめんね。

丁寧に望乃夏を引き剥がして、布団をかけ直す。………………まだ起きちゃダメよ。もう少し、寝ててね。

パジャマを脱いで畳むと、少し迷った後………………望乃夏の枕元に置く。……………………望乃夏も寂しがりなとこあるから、一応、ね。

ジャージに袖を通して、髪を結い直す。いつもと変わらないその流れに、今日は一段と気合が入る。

(それじゃ、………………行ってくるわね、望乃夏。)


いつもの朝練の集合場所を素通りして、体育館に向かう。………………けど、まだ体育館の鍵は開いてない。しょうがないわね…………と練習場所に引き返すと、そこには部員がほぼ全員揃っていて。………………その中に、あの2人の姿も見える。

「………………珍しいですね、こんだけ揃うなんて。やっぱり昨日の件のせいですか?」

と、柄になくおどけて、しかし怒気はサラリと混ぜこみながら聴くと、

「………………うーん、やっぱ墨森ちゃんに口止めは無理だったかぁ。」

と、安栗さんが頭をかきながら出てくる。

「………………甘いのよ。望乃夏一人口止めしても、周りには他生徒かんきゃくがいるってことを忘れてるわ。」

「なるほど、確かに…………。んで、どうする?」

「…………どうする、ってのはあの二人のこと?もちろんそれなりの対価は払ってもらうわ。」

「………………まぁ、それもそうなんだけどな…………」

と、後ろで成り行きを見ていた経堂先輩が人混みを分けて出てくる。

「………………その辺のことはこっちで処理するって伝えたはずなんだけどな。」

「………………私のことは別にいいんですよ。ただ………………うちの望乃夏を泣かせた代償だけは払ってもらおうかと思いまして。」

「………………そうか。………………ああ、雪乃、その…………伝えなきゃならないことがあってだな………………」

「………………知ってますよ。この中の半数は、」

そこに集まるメンバーを、一通り見渡す。

「…………私に対して、良くは思ってないってこと。一年生のほとんどと、二年生の一部。そしてスタメン組の中にも私を嫌う人がいるのはとっくに知ってますよ。」

私の投下した爆弾は、そこにいるチームメイト達に大きなどよめきをもたらした。私は更に続ける。

「……………………不気味でしょうね。でも私には、なんとなくそういうの分かるんですよ。…………例えどれだけ取り繕っても。………………ね、先輩。」

後ろの方で目立たないようにしてた先輩と目線を合わせると、先輩は飛び上がらんばかりに驚いて後ずさる。………………同じスタメン組だけど、私がスタメン入りしてからレシーバーが多くなった元エースアタッカー。………………いい人なんだけど、時折向けられる視線に嫌悪感が混ざってて。

「………………悪い、その辺にしといてくれ………………」

経堂先輩が、重苦しい空気に耐えかねて話を打ち切る。

「…………各々思ってることはあると思うが…………雪乃を起用したのは私だ。何か言いたいことがあるなら私に頼む。」

「……………………わかりました。けど………………こんな事があった以上、私は次の大会、出ませんから。」

「なっ………………」

そう、昨日の夜からずっと考えてきて、ようやく出せた結論。それを聞いて、チームメイト達がざわめく。けどその反応は様々なようで。私のことを心配する視線、空いたスタメン枠に舌なめずりする野心的な視線、そして、何を勝手な、と怒る視線。……………………全部が、うざったくて。

「………………言いたいのはそれだけです。で、どうするんですか?このまま朝練するんなら早くやりましょうよ。………………もし、この下らない話し合いが続くんなら、私は帰って寝ます。………………待たせてる人がいるんで。」

突き刺すような視線を浴びせると、弾かれたように何人かが飛び退く。

「………………今日は解散、後は自主練…………そして放課後また集合、以上。」

経堂先輩は、やっとそれだけ絞り出すとそのまま立ち去る。その声に、みんな帰途につく。それを見て私も寮に帰ろうとするけど。すれ違いざまに「…………待ってるから」とつぶやく声が聞こえてきて、思わず立ち尽くす。

……………………これは、根深い問題になりそうね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ