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『ファースト』。―望乃夏

………………良かった、雪乃が気に入ってくれて。

取り分けたうどんを一心に頬張る雪乃を見てひと安心する。さて、私も食べよっと。

鉄鍋から救って取り分けても、うどんはまだ余ってる。やっぱり3玉は入れすぎたかな…………。

と、目の前に空になったおわんが突き出される。目線を上げればそこには、

「………………おかわり。」

「………………はーい。」

すっかり食いしん坊さんになった、雪乃がいた。

結局、私が一玉とちょこっと、雪乃が残り全部を平らげて鍋は空になる。

「…………ふぅ、お腹いっぱい。」

と、心なしかちょっと膨らんだお腹を擦りながら雪乃が満足げに言う。

「もう、そんなに食べて…………今度は腹痛で寝込んでも知らないからね?」

「…………だって、望乃夏の料理おいしかったんだもん。」

それはよかった。………………正直言うと、全く自信なかったし。と、雪乃が枕に顔を埋めて続ける。

「それに………………寝込んだらまた望乃夏が看病してくれるんでしょ?」

とくん、と心臓が跳ねる。雪乃の看病―――今回は看病と言うほどのことはやってないけど―――また、してみたい、かも?

「…………んー、ボクはもう看病はしたくないかな。」

雪乃が目を見開く。……いや、そんな目で見ないで。

「…………だってさ、看病するってことは体調が悪いってことで…………そしたら雪乃とできることも限られるから、お互い元気なままが、ボクは、いいかな。」

雪乃も、それを聞いて納得したようで。

「………………なら私も、早いとこ治さないとね。」

と、さっさと布団に包まる。

「いやいや、まだ早いって。………………それにしても、今日は雪乃と一緒に寝られないんだね、残念。」

ボソッと呟くと、雪乃が跳ね起きる。

「だ、誰のせいでこんな目にっ…………バカッ」

「ゆ、雪乃!?」

それだけ呟くと背中を向けて寝っ転がる雪乃。え、私何かした!?

「ゆ、雪乃ー…………」

背中をつついてみるけど、反応がない。

「………………何か悪いことしたなら謝るからさ、こっち向いてよ…………。」

肩に手をかけて揺さぶると、そのうち諦めたのか雪乃がこっちを向く。

「………………実言うと、謝るのは私の方なんだけど…………。実は、ね。………………昨日寝てる時に…………変な気分になっちゃって………………そ、その…………き、キス、しちゃったの…………。」

と、雪乃が途切れ途切れに伝えてくる。………………へー、そんなことが…………。

「…………ボクが寝てる間にそんなことしてたんだ…………………まぁ、確かにボクも雪乃と寝た時に変な気を起こしかけたから人のこと言えないけど………………。まぁ、ほっぺたとかおでこでしょ、それなら」

「ち、違うのっ。」

「………………え?」

「わ、私がキスしたのは………………望乃夏の、…………………………ここっ。」

そう言って雪乃が指さしたのは、

「………………唇?」

雪乃がコクリとうなづく。へぇー、唇かぁ………………………………って、えぇぇぇぇぇぇえぇえ!?く、唇って、えっ!?

「く、唇ってことは…………唇ってことだよね!?リップトゥリップだよねっ!?……………………」

私は真っ赤になるやら、真っ青になるやら。頭の中で何かが回る。ぼふん、と頭が爆ぜて、何も考えられなくなる。

「そ、その、悪かったわ…………寝てる望乃夏に、キスするなんて…………」

「ボ、ボ…………ボッ…………」

「の、望乃夏………………!?」

思わず、雪乃の肩を抱く。

「ボクの『ファースト』を返せっ!!………………は、初めてはボクの方からって決めてたのにっ…………」

自分でも何を言ってるのか分からない………………。雪乃の肩を抱いて揺さぶる。

「の、ののっ、く、ぐるじっ」

雪乃の顔が真っ青になるのを見て、慌てて手を離す。

………………そうか、私の『ファースト』は雪乃に貰われたんだ。唇にふと手をやって、なんとか感触を思い出そうとする。けど、寝てる間のことなんて思い出せるわけもなくて………………。隣で咳き込む雪乃を見て、少し考える。

「…………雪乃。」

なぁに、とこちらを向く雪乃の顔を、がっちりと抑え込む。

「………………寝てる間のなんて、ノーカンだからね。だから、これが私達の初めて。」

そのまま、勢いで雪乃の唇を奪う。………………けど、勢い余って雪乃を押し倒しちゃって。

…………………………私達の『ファースト』は、お互い散々なことになった。

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