おかいもの。―望乃夏
後ろ手にドアを閉めると、私はため息をつく。
…………はぁ、雪乃ったら。あんなに、甘えてくるなんて。………………思わず、手のひらをぎゅっと握りしめる。
………………雪乃の身体を拭いてる時、何度も理性が飛ぶかと思った。特に、雪乃の芝に触れた時…………その下に指を滑らせたら、雪乃はどんな反応するんだろ、とか思っちゃって…………もう少しで、「一線」を超える所だった。
…………ああ、ひんやりした廊下の空気が心地いい。私の火照った身体も、バカな考えも、風に乗って消えていくようで………………。
ふとズボンに意識を移すと、
(あ、置き忘れた…………。)
戻ってきても財布をポケットにいれっぱなしだったことに気がつく。そっと取り出して開くと、2枚の一万円札。その間に、メモが挟まってた。
(雪乃ちゃんに食べさせてあげなさい、か。)
『あの人』、私が料理したことないの知ってるくせに。二枚目をめくると、一番上に名前がでかでかと書いてある。
(鍋焼きうどん、か。)
確かに消化もよさそうだし、温かいから身体にもよさそう。だけど…………私に、作れるのかな。
三枚目からは材料と作り方が書いてある。そこに並んでいるのは、さながら呪文のようで。
(え、英語の授業の方が簡単かも………………)
………………ほんとにこれ、日本語かなぁ………………。
でも。雪乃に風邪をひかせたのは、私のせい。………………だから。
私は、そのまま歩き出した。
(まずはお豆腐か…………。木綿、でいいのかな、これ。)
私は、カゴを片手にかけて悩む。…………えーと、絹が柔らかい方で木綿が木目?ついてる方だよね。…………えーい、両方入れちゃえ。
次はゴマ油と醤油、みりん、か。…………うーん、寮のキッチンに置いてあった気もするけど、とりあえず買おうかな。私は、それぞれ一番小さいのをカゴに投げ込む。…………あれ、材料リストにお酒って書いてあるけど…………、私達まだ15だよ?
さて、後はうどん玉とお野菜かぁ。
冷凍コーナーに寄ると、当たり前だけど冷凍うどんが冷凍ケースに入ってた。………………けど。
(5玉、か…………。)
メモには1玉でいいって書いてあるけど、どうしよう。雪乃は2玉食べるかもしれないけど…………。いいや、余ったら誰かにあげれば。
いい加減重くなってきたカゴを片手に、青果コーナーへと足を運ぶ。
(…………小ネギ、人参、大根、牛蒡か。)
全部近い所にまとまってたから難なく全部カゴに入れたけど、
(野菜って…………高い…………。)
この4つで、他全部と同じぐらいの値段。………………し、知らなかった…………。
自分が世間知らずだってことを、嫌というほど思い知らされた買い物になった。
作者メモ:望乃夏さんのメモを見て「これほんとに焼きうどんか?」と思った方もいるかもしれませんが、イメージとしてはけんちん焼きうどんです。