お粥。―雪乃
私のお腹が、くぅ、とかわいい音を立てる。…………俯いて真っ赤になると、望乃夏が壁の時計を見る。
「もうお昼かぁ…………。」
と、買い物袋をガサガサと漁ると、パンと飲むゼリー、お粥を取り出す。
「ごめん、こんなのしか思いつかなくて…………。」
「…………炭水化物多いわねぇ…………。」
なるべくならタンパク質の方がいいんだけど…………とか思うけど、望乃夏に買ってきてもらってる以上贅沢は言えない。
「………………じゃあ、お粥貰おうかしら。 ああ、温めて?」
と注文を付けると、望乃夏が湯煎するために部屋を出ていく。その時、私の頭にあるアイデアが思い浮かんだ。
………………ふふっ、私にアラレもない姿をさせた恨みは、きっちり返させて貰うわよ?
望乃夏がお椀とお粥のパックを持って戻ってきた頃を見計らって、また布団に潜り込む。
「のの、か…………おかえり…………」
「どうしたの雪乃、まただるいの?」
「………………ええ、熱上がったのかしら………………。」
のそのそと起き上がって、望乃夏を見る。…………ふふ、信じてるみたいね。
「……………望乃夏、お粥…………食べさせて…………。力、入んない…………」
と上目遣いに眺めると、望乃夏はモジモジし始める。
「え、食べさせてって…………あーん、するの!?」
「…………望乃夏、お腹減ったぁ…………早くぅ…………。」
と急かすと、望乃夏は慌ててお椀にお粥のレトルトを空けて、スプーンですくって私の口元に運ぶ。そっと口に含むと、咳き込むふりをする。
「望乃夏、あっつい………………冷まして…………」
「え、どうやって!?」
「…………ふーふー、して。」
その注文も望乃夏に受け入れられる。目を白黒させながら、一口ごとに冷まして食べさせてくる。その度に、私の中に何かが満たされていくようで。 すぐにお椀が空になる。
「ふぅ…………じゃあ、ボクもごはんを」
「望乃夏ぁ、おでこのタオル取り替えて………………」
「はいはい、待っててね。」
と、望乃夏がタオルを取り替えて載せてくれる。
「…………枕、もうちょっと高くして。」
と頼むと、望乃夏が枕の位置を替えてくれて、
「…………なんか足がだるいわ…………」
と言えばふくらはぎを揉んでくれる。
「さて、そろそろごはんを」
「ねぇ望乃夏。」
「こ、今度は何…………。」
「…………ただ呼んだだけ。」
あ、望乃夏が怒った。
「………………あのさぁ、ほんとに熱あるの?楽しんでない!?」
「あーやっぱり寝てた方がいいかしらね。」
と、布団を被って壁側を向く。
「………………図星か。」
「………………私のアラレもない姿を見た罰よ。」
「………………最初の方は雪乃が恥ずかしい目に遭ってる気がするけど。」
………………まぁ確かに。でも、お粥が熱かったのだけは、ホントよ?
「……………………ボクのことをそれだけ揄えるんならさ、少しぐらいボクがいなくても、雪乃は大丈夫でしょ。」
と、望乃夏が立ち上がって部屋を出ていく。………………少し、やりすぎたかしら。
少しだけ暖かくなったお腹を抱えて、望乃夏の帰りを待つ。
だけど、時計の針が一周しても、望乃夏は帰ってこなかった。




