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微熱の、鎖。―雪乃

今回生々しい描写は避けました。

望乃夏が出ていった後、部屋には時計の規則正しい音と、私の荒い息だけが残った。

重い体をベッドの上に起こすと、部屋の冷えた風が私を冷ましていく。…………バカなことをしたものね。あのまま布団に戻っていれば、いや、望乃夏の布団を使っていれば………………そもそも、望乃夏に『ちゅー』しなければ、……………………私は今頃体育館でスパイクを連打してた。ほんっと私、バカなんだから。

望乃夏が貸してくれた抱き枕をぎゅっと抱きしめて寝転がると、仄かに望乃夏の匂いが立ち上る。布団に残った望乃夏の匂いは、私の汗ばんだ臭いで上書きされて無くなりかけてたけど、それでもわずかに残ってて。身体中が、望乃夏に包まれてるみたい。

安心した私は、また眠気に襲われる。…………そうね、望乃夏が帰ってくるまでまだかかりそうだし…………いい、かしら。








あれ、ここは、どこ…………?体育倉庫………………?

嗅ぎなれない石灰の臭いが鼻をつく。立ちすくむ私の手には、小箒が握られていた。

………………そうだ、今は班清掃の時間だ。扉の脇で、他の子達も掃除してる。…………いや、何人か姿が見えないわね。またサボりかしら?…………しょうがないわねぇ。

こぼれた石灰を掃き集めるうちに、私はいつの間にか奥の方に入り込んでいた。…………そうね、こんなもんかしら。戻ろうと振り返ると、体育倉庫の扉がまさに閉められようとしているところで。全部放り出してダッシュするけど、物が多くてうまく走れない。

そして、扉が目の前で閉まった。あらん限りの力で扉を叩く。

(ねぇ、出して!!)

(そのままそこにいればぁ?真面目なんだから明日の朝まで掃除してれば?)

(やめて!!出して!!)

(やーだね。それじゃあ、『じゃあね』。)

スタスタと、去っていく音。必死で扉を揺らすけど、それに答えてくれる人は誰もいなくて。


………………どれだけの時間が経ったんだろ。差し込む光は、もう真っ赤になってて。どこからか流れ込む風が、私の身体を冷やしていく。

(やだ、寒い………………怖い…………)

ガタガタと震える私。そんな私に追い討ちをかけるように、身体の水分が下腹部に集まり始めて。

(やだっ………………誰か、出してっ

…………………もう、限界っ…………)

何回か、その辺の隅っこでしちゃおうかって考えたけど、誰も見てなくても恥ずかしすぎてできなくて………………。

(また、私はっ…………)

不意に頭に浮かんだ、謎の思い。だけどそれは一瞬でかき消されて。私は、もうすぐ来るであろう破滅に怯えて、震えていた。

(もう、ダメ…………)

その時、体育倉庫の扉が勢いよく開いて、背の高い女の子が飛び込んでくる。

(………………誰!?)

その子は、私を見つけると、私の名前を呼びながら抱きついてくる。

(あったかい…………………そうだ、私はっ)

突然、周りの景色が砕け散る。そして、赤く染まる体育倉庫も、石灰の臭いも、溢れそうな私のお腹の中身も、消えていく。ただ一つだけ消えないのは、私を抱きしめる女の子だけ。

(雪乃………………よく、頑張ったね。)

頭を撫でられる私は、その子にしがみついて泣いていた。怖さも、寒さも、恥ずかしさも、消えていく。もう私は………………一人じゃないんだ。

顔を上げれば、その子はもう何度も見たことのある顔。アンダーリムがトレードマークで、そこそこ美人なのに無自覚で、自分のことを「ボク」って呼ぶ不思議な娘…………、私の、想い人。

(ありがと、………………望乃夏。)




目を開けると、心配そうにのぞき込む顔。思わず、小さな悲鳴を上げる。

「…………大丈夫、雪乃…………。うなされてたけど………………」

「の、ののかぁ…………。」

思わず、目の前の胸に抱きつく。

「…………もう、どうしたのいきなり。」

私の頭を撫でながら聴く望乃夏。


私の中で、何かが粉々になる音がした。

完結したら、望乃夏さんが間に合わなかったverも差分として投稿する予定です。………………その場合は確実にR付きそうですが。

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