起きたら。―望乃夏
窓から朝日が差し込んで、私の顔を照らす。…………あれ、朝は私のベッドに日が差し込まないのに。ふと気になって目を開けると、いつもと違った世界が見える。………………あれ?
なんでだろ、と昨日の記憶を巻き戻して……………………頭がぽふんってなる。あぁぁぁぁぁぁ、私、なんてことを………………。
「ごめん雪乃っ………………って、あれ?」
起きた時から思ってたけど、やけに布団が広い。それに、隣にいるはずの雪乃の感触が無くて………………あれ、朝練行ったのかな?
すると、テーブルの当たりで何かが動いた。な、何っ!?
慌てて眼鏡をかけると、
「ゆき、の…………?」
「…………あら、おはよう。」
雪乃が、熱い視線を送ってくる。
「あれ、朝練いいの?」
え、と呟く雪乃に壁の時計を指し示すと、一瞬で真っ青になって。
「ね、寝坊したわ!!」
と、雪乃は立ち上がって走り出…………そうとして、へたりこむ。
「ど、どうしたの!?」
「だ、大丈夫よ。ちょっと足が痺れただけ……………………。」
と、また立ち上がる雪乃だけど、その足取りは覚束無くて。
「ゆ、雪乃、やっぱり変だよ…………」
「だ、大丈夫。大丈夫、なん、だから…………」
とフラフラ歩く雪乃を、私がそのまま見送るわけなく。素早く扉の前に立ちふさがる。
「雪乃、調子悪いなら休んで…………。」
「しつこい、わね。…………大丈夫、だから。」
と、私を押しのけるその腕に力はなくて。私は片腕で、雪乃を押さえつけられた。
「…………やっぱり、すごい熱。さ、お布団入って!!」
と、手を引いて強引に雪乃の布団に押し倒して、布団をかける。
「…………携帯借りるよ。」
「なに、する気なの…………。」
「お休みの連絡。どうせ今日も練習あるんでしょ。」
「だから、私なら大丈夫、だから。」
「高熱あってまっすぐ歩けない人のどこが大丈夫なの!!」
思わず雪乃の胸元を掴んで詰め寄っていた。そんな私に雪乃は目を見開いていたけど、やがてその目から涙がこぼれ落ちる。
「………………だって、私はエーススパイカーだから…………。チームの、要だから。」
「要なら尚更。…………無理して出て、他のメンバーが移されて使用不能になったら、きっと雪乃は自分のことを責めるから。」
優しくそう諭すと、雪乃はそれ以上起き上がろうとせず、
「…………携帯返して。自分で、連絡するから。」
雪乃の電話が終わった頃を見計らって、私は濡れたタオルを持ってくる。
「ごめん、今んとこ、こんなのしかなくて………………。」
おでこに載せると、雪乃がそっと目を開く。
「いいのよ…………。充分、心地いいわ。」
いつもより熱っぽい雪乃の声に、罪悪感を覚える。
「………………その、雪乃…………ゴメン。ボクが雪乃を布団から追い出したせいで、あんなとこで寝てたんでしょ。どから風邪ひいて………………。」
「…………いいのよ。私が暑くなって、勝手に抜け出しただけだから。」
「やっぱりボクのせいじゃん…………。」
「………………そんなこと、ないわ。受け入れたのは私の方。だから…………私が勝手に、風邪ひいただけだから。」
だるそうに答える雪乃。見てるのが辛くなって、腰を上げる。
「…………朝ごはんと、水買ってくる。…………」
そう言って立ち上がると、雪乃が袖を掴む。
「…………やだ、行かないで…………。」
「…………でも、冷えピタとか買ってこないと………………。」
「………………まだ薬局も開いてないし、望乃夏だってパジャマじゃない…………ね?だから、いなく、ならないで。………………ひとりに、しないで。」
潤んだ眼差しが、私を引き止める。だけど、………………このままだと雪乃は苦しいまんま。
私はクローゼットを開けて、適当な服を見繕う。そして、手早く着替えて…………ベッドから、抱き枕を取って雪乃に投げる。
「…………ごめん、雪乃が辛そうなのは私も見てて辛い。だから………少しでも楽にしたいから…………ボク、行くね。その間抱き枕貸すから………………ボクの代わりに、抱きついてていいから。」
そう言って背を向けると、やっぱり雪乃は袖口を掴んでくる。
「ののかぁ………………アイス、たべたい…………。」
熱のせいか、艶のある雪乃の声に心が跳ねる。
「あと……………………はやく、かえって、きてね…………。」
誘惑を全力で叩きのめして、私は部屋の扉を開ける。………………行ってきます。
望乃夏メモ
望:(雪乃が寝ちゃってるから、小声でごめんね)
望:(アイスは熱ある時に食べたくなるけど、消化にかかるエネルギーが大きいから体力を消耗しやすいし胃に負担がかかるからあまりオススメできないね。)
望:(じゃ、みんな。雪乃のこと、頼んだよ。)