エアコン。―望乃夏
「じゃ、消すよ。」
「いや、私が消すわ………………全く、望乃夏だと帰ってくるのが危なくてしょうがないわ。」
と、雪乃がスタスタ歩いていって、部屋のパネルに手をかけ――て止まる。そして、こっちを向く。
――はいはい、分かってますよっと。布団から這いずり出して、雪乃の手をとる。
「一緒に行く?」
少し恥ずかしそうに雪乃は頷いた。
「………………早いとこ一人で行けるようになって欲しいかな…………。」
「………………寒くなくなってきたら大丈夫、だから。」
壁越しにそんな会話をするのも、もう2回目。………………ってか、よく考えてみたら、私は誰かと一緒に『花園』に立ったこと自体この前が初めてな気がする。………………なんでみんな、一緒に行きたがるのかなぁ?
「望乃夏、戻るわよ。」
コンコンとノックする音に、私も慌てて水を流して扉を開けた。
「じゃ、消すわよ。」
「はーい。」
布団に潜ってすぐ、部屋の照明が落ちる。私は掛け布団を顔まで掛けてから………………思い直して、めいっぱい壁際まで転がって半分程スペースを開ける。ひた、ひたと雪乃が床を歩くたびに、私の心はドキドキして。
足音が、ひた、と立ち止まった。来た。覚悟して待つと……………そのまま雪乃は、自分のベットに入った。………………へ?
「………………やっぱり寒いわね。望乃夏、エアコンの温度上げる?」
「…………勝手にして。」
壁を向いてクッションを抱きしめる。………………ボクのドキドキを返せ。
「………………どうしたのよ一体。」
「…………うるさい。」
「…………変な望乃夏。」
雪乃はそう言って立ち上がると、エアコンのリモコンを探して立ちあがる。
「………………温度、変えなくてもいい。」
「勝手にしてって言ったのはどこの誰よ。」
少し不機嫌な雪乃の声。………………こっちだって不機嫌になりたいよ。
だけど、聞こえてきたリモコンの音は、温度を上げる音じゃなくて、エアコンを切る音。あれ、と思って顔を上げると…………雪乃が、目一杯壁際に寄って布団を被ってた。
「あら、間違えてリモコン切っちゃったわ。………………また点けるのも面倒ね。あー寒いっ。」
わざとらしくそう呟く雪乃。…………リモコン手元にあるよね?
全く、雪乃ったら。布団から這いずり出して、雪乃のお誘いに乗る。
「………………ありがと、雪乃。」
「………………昨日は望乃夏んとこだから、今度は私のとこ。」
「そういうことだったんだ…………。」
「………………あと、こっち向かないで。………………息が首にかかって、く、くすぐったい…………。」
「なら雪乃もこっち向けばいいんじゃない?」
「なっ…………」
雪乃の体温が、急に上がった気がして。
「お、おやすみっ!!」
布団に顔を埋めちゃった。ちぇ。