飛び込み。―望乃夏
ざぁぁ、とかけ湯をしてから、私は湯船に身を沈める。…………ふぅ、やっぱお風呂はいいなぁ。
壁にもたれ掛かって手足を伸ばすと、疲れもほぐれるようで気持ちがいい。
「…………望乃夏、オヤジくさいわよ。」
と、雪乃が横目で見てくるけど私はお構い無し。いいじゃん、お風呂は自由で。
「そういう雪乃は、お風呂でもきっちりしてるんだね。」
「…………まぁ、ただお湯に浸かるだけだし、はしゃぐ方がどうかしてるわよ。」
「まぁ、そうだよねぇ………………。」
ふと脳裏に、この前お風呂に華麗な飛び込みを決めた友人の姿が思い浮かぶ。………………あの後怒られてたけど果たして大丈夫だったのかな…………?
「…………望乃夏?」
「あ、うん、何でもない。」
「………………考え込んで長風呂しないでよね?」
「う、うん………………でもねぇ…………。」
「あら、何か悩み?」
「………………実言うと…………自分の限界がまだ分からないの。どれだけ長く入るとアウトなのかがまだ掴めなくて…………。」
「あら、貧血になったの初めてじゃないんでしょ?」
「………………まぁ、ね。一応この辺までかなっていう感覚は今まであったんだけど…………昨日ので全部吹っ飛んじゃった。」
「…………やっぱりシャワーの方がいいんじゃないの?」
「やだっ。」
私は思わず立ち上がって…………目眩がして、お風呂のフチに腰掛ける。
「もう、だからシャワーで」
「…………やだっ。」
もう一度口にして、はっきりと拒絶する。
「…………シャワーだと、すぐに終わっちゃうから雪乃と一緒に居られないじゃん…………」
のぼせて倒れちゃうのは辛いけど。雪乃に迷惑かけるのも嫌だけど。それでも、雪乃と一緒にいたい。
「…………馬鹿ね、自分のことも考えなさい。」
と、頭を抱えながらため息をつく雪乃。それでも湯船から身を起こして、私の横に座る。
「………………暑くなったら、こうやって冷ましなさい。少しだけど時間稼ぎになるわ。…………私だって、望乃夏とのお風呂、楽しみなんだから。」
雪乃の左手が、私の右手を求めて攻め込んでくる。私からも右手を迎え撃つと、指先が触れ合って。
その続きは、巨大な水柱に遮られる。
「きゃあっ!?」
「何っ!?」
思わず抱き合うと、爆心地から出てきたのは…………
「ふぃ~、お風呂一番乗り~!!」
長い黒髪、ちっちゃい身長、そして耳としっぽでも付いてそうな顔。…………さっき脳裏に出てきた友人――栗橋さん本人だ。
「…………もう、栗橋さん…………お風呂への飛び込みは危ないからやめてっ。」
「およ?望乃夏ちゃんいつの間に?」
「…………さっきからずっとここにいたよ?」
「ごめーん気づかなかった。てか見えてなかった!!」
悪びれもせずそう言ってのける栗橋さん。ふと横を見ると…………
「望乃…………『墨森さん』、この無礼な娘は知り合いかしら…………?」
雪乃がどす黒いオーラを撒き散らしながら、こっちを睨んでる。
………………私の胃が、キリリと痛み始めた。
友情出演として芝井さんとこの栗橋 莉亜さんをお借りしました。次話のキーマンになっていただく予定です。