ゆびきり。―望乃夏
「あ、そだ。雪乃………………」
「…………何かしら?」
「………………ちょうど服屋さんに居るし………………、『アレ』選ばない?」
「何よ『アレ』って。」
…………うう、人前で言うの恥ずかしいな…………。
「ほら………………あの………………『あんだーうぇあ』?」
「…………あら、望乃夏も何かスポーツ始めるのかしら?」
あーダメだ伝わんない。
「えと………………その…………雪乃、やっぱ言えないっ。耳貸してっ。」
何よもう…………と言いたげな雪乃に耳打ちすると、やっぱり顔が赤くなって、
「…………………………つ、付き合うわ。」
と、そっぽ向いて付いてくる。
「………………やっぱり、これしかないよね………………。」
「……………………なんで中高生向けでフロントホックのなんてあるのかしら…………」
結論から言うと、私たちはお目当てのものは買えたけど…………………………自分達の発育の悪さを嫌というほど思い知らされることとなった。トドメには、うちの中等部の制服を着た娘を見つけて………………私達のより大きなサイズのを手に持ってるのを見つけて、二人して死にそうになった。
(………………もう少しでいいから育たないかなぁ…………)
少し前まではそんなことどうでも良かったけど、雪乃に言われてから意識するようになって………………目下、育つ気配のなさに諦めかけてる。
「………………望乃夏。」
「な、なに…………?」
「あそこで化粧品を売ってるわ…………覗いてきましょ。」
「ボ、ボクはいいよ………………。」
下手だし…………と断ると、雪乃が振り返ってため息をつく。
「………………私にまた言わせる気?……………………好きな人には、綺麗でいて欲しい、って。」
少しだけ赤くなった雪乃が聞いてくる。
「………………だって、ボクのメイクの腕見たでしょ。雪乃も腰抜かしてたし…………。」
「お、思い出させないでよ………………。私が色々教えてあげるから、段々に上手くなりなさい。」
「そんなこと言ってもなぁ………………。」
下手なものはどうやっても下手にしかならない気がする…………。それに、上手くなったとしても何かいい事あるかなぁ………………?ん、いい事?
「…………わかった、雪乃。ボク頑張ってみるよ。」
「あら、妙に素直ね。じゃあ…………」
「でもその前に、約束して。」
「………………何よ、変な事じゃないでしょうね?」
「雪乃、もしボクが1人で人並みにメイクできるようになったら……………………………………今日買ったこの服を二人で着て、一緒に……………………デート、してくれるかな?」
勇気の定期預金を解約して、雪乃におねだりする。目線を上げて雪乃を見ると………………あ、固まってる。
「………………雪乃ー?」
あ、復活した。
「いきなり何を言い出すのかと思えば………………でもまぁ、悪くないわね。…………それなら私からも約束して欲しいことがあるわ。…………3ヶ月。試験も全部終わって春休みになるまで。それが期限よ。それまでに私が望乃夏のメイクにOKを出さなかったら………………服のコーディネートもメイクも私に任せてもらうわ。」
「…………うわぁ、地味にきついなぁ…………。」
「何よ、デートしてあげるんだからそれぐらいの対価は貰わないと…………。」
そう言いながらも嬉しそうな雪乃。
「わかった、じゃあ指切りしよっか。」
小指を差し出すと、雪乃が自分の小指を絡めてくる。
(………………がんばる。絶対に雪乃と………………また、デートするんだ。)
私は一人、燃えていた。