エスコート。―雪乃
望乃夏とデート、望乃夏とデート………………
私の頭のなかは、そればっかり。自然と顔が緩んじゃって、慌てて引き締め直す。
それにしても…………
「………………望乃夏、なんでずっと私の影に隠れてるの…………」
しかも全然隠れられてないし。
「…………だって…………みんながボクのこと見てる気がするんだもん…………。」
「そりゃ、今のあなたは可愛いし、美人だからよ。」
私ですら嫉妬するぐらいに、ね。
「………………もう、やだ。」
と、望乃夏が駅のトイレに駆け込む。あっ、待ちなさい。
トレーニング漬けの私と、インドア派の望乃夏。走ればどっちが早いのか、それは言わずもがな。あっという間に望乃夏に追いつくと、トイレでメイクを落とそうとしていて。
「ちょ、やめなさいって。」
「嫌だぁぁぁ、メイク落とすぅぅぅ、みんなに見られたくないぃぃ。」
急に駄々っ子になった望乃夏を必死で宥めるけど、もう遅くて。
「ちょ、そんなに擦ったら跡になるからやめなさいっ。」
「嫌だぁぁぁ。」
結局、私の自信作は一時間もせずに消えてしまった。
「…………………………」
「望乃夏、そんなにキョロキョロしてたら不審者よ…………」
「…………だって、今でも誰かに見られてる気がして………………」
「はぁ、全くもう………………。私をエスコートするつもりで歩きなさいよ。」
「え、ボクが雪乃をエスコート!?」
「今日のデ…………『外出』はあなたから言い出したことでしょ。なら責任もって私をエスコートしなさいよ。」
望乃夏の反応が見たくて、少しだけ強気に出る。
「エスコート………………こ、こう、かな?」
私の右手が、望乃夏の左手と繋がる。その温もりにドキッとして…………一瞬で砕ける。
「ちょ、望乃夏、早いって。」
「あ、ご、ゴメン…………」
「…………もう…………。同じような身長とはいえ同じコンパスって訳じゃないんだから。相手に合わせて歩くのがマナーよ。それに、今は道の右側を歩いてるんだからエスコートする側が左に来るものよ。何かあった時に守れないじゃない。」
「………………そんなに詳しいなら雪乃がやればいいのに…………。」
「あら、何か不満?」
「………………いや、別に。」
「………………ま、次からでいいから。それまでにちゃんと練習しとくのよ?」
「…………はーい。じゃ、行こっか。」
握られた手に力が入る。私はそれに返すように、右手をギュッと握り直した。
エスコートに関する知識はうろ覚えなので間違ってるかもしれません。てかこれボディーガードの作法だったかもしれない←