あたしの物語。―脇役その1
この前完結させたのに続きが出ましたよっと。
………………………………さーてと、カッコつけて出てきたのはいいけど、この後どうしよっかな………………ヤベェ、何も考えてなかった。
涙やら鼻水やらでぐっしょぐしょになった顔もそのままに、私―――文化はトボトボと校舎に向かって歩き出す。………………あーあ、夢敗れちったなぁ。雪乃のこと落とせるってずっと信じてたのに。
とりあえず私は、このみっともない顔をどうにかしようと通いなれた桜花寮に入る。流石に人通りは多かったけど、私のこの顔を見てぎょっとしたり、あからさまに避けるようなのは居なかった。………………みんな、卒業が悲しいんだと錯覚してくれたみたいだ。
(………………この中にゃ、あたしと同じ思いをするのが何人も居そうだな。)
桜花寮は壁が薄いから、その気になれば隣の部屋の情事なんて一部始終全部聞き取れる。だからあたしみたいな情報屋は情報収集が楽で良いんだけど、逆に言えばその情報の価値が低くなる。だって「どこそこの〇〇さんが後輩に食べられた」なんて、次の日にはみんなにバレててもおかしくないし。
(………………っと、顔ぐらいは治していくか。)
近くのトイレで顔を洗って、なんとかまともな顔に戻す。………………うん、目は腫れてるし「どこがまともだよ」って突っ込まれてもおかしくないけど………………ま、いいか。
そのままくたびれた階段を、トン、トンとすり減った靴で上っていく。………………おっと、危うく通り過ぎるとこだった。そのまま廊下をカツカツと歩いて、とある部屋のドアを適当なノックと共に開ける。
「どわぁっ!?」
「わっ!?」
「よっ。」
半裸の新崎ちゃんと明梨が布団の上でひっくり返る。慌てて掛け布団を引き寄せようとする明梨より早く布団を強奪すると、二人して真っ赤な顔でこっちを睨みつけてくる。
「「文姉っ(文化さんっ)!!」」
「いやー悪い悪い、お楽しみ中だったか?いやぁノックしたけど返事なかったからさー」
「文姉、ノックと同時に開けるのは『返事がなかった』と言えるの………………?」
「明梨ぃ、細かいこと気にしてると新崎ちゃんに嫌われるぞ?」
「き、嫌うだなんてっ!?」
新崎ちゃんは思ったよりもいい反応する。そこがまた、うちの明梨のどストライクなんだろうけどな。
「………………で、何の用なのさ。」
どさくさ紛れにちゃっかりブラウスとスカートを履いていた明梨が、不機嫌な様子で睨みつけてくる。………………おお怖っ、お姉ちゃんそんな風に育てた覚えはないよ?
「あー、そうそう。あたしの部屋に着なくなった服置いてあるからさ、明梨にやるよ。下着もあるから使っとけ。」
「………………あ、ありがと。………………って、下着は流石に要らないよ!?」
「あー、だろうなぁ。」
あえて明梨の胴体をじーっと見る。
「っ!?………………ぶ、ブラは要らないから」
「おやぁ?あたしはパンツのことを言ったんだけど?」
「うぐっ………………ふ、文姉のは規格外だから、着れないの多そうだし………………」
「………………ふぅん?てか誰が規格外の小玉スイカだ揉ませるぞ」
「普通逆じゃないっ!?」
明梨が前のめりになって私を威嚇する。………………うんうん、明梨はそれぐらいの方が丁度いい。態度も胸もな。………………さてと、お次は新崎ちゃんか。
「………………んー、明梨じゃブッカブカだけど、新崎ちゃんなら案外ぴったりサイズっぽいね。」
「わ、私はそんなにおっきくないですからっ!?」
慌てて胸元を覆い隠す新崎ちゃん。
「大丈夫だって。毎朝周りの肉を寄せて上げて詰め込んでしてればいつかこうなるからさっ。」
「ほんとなの文姉っ!!」
おっ、新崎ちゃんだけじゃなくて明梨まで釣れたか。………………いい加減諦めとけって。
「ウソだぞ。」
途端に二人共ズッコケる。
「………………まぁ、そんな冗談は置いといて。ところで新崎ちゃんよ、長木屋ちゃんはあの後どうなった?」
「え、えっと………………迎えに来た犬飼先輩に引きずられて寮に入っていったので、その後のことは………………」
「ふーん。それだけ聞ければいいや。………………それじゃーな明梨。新崎ちゃんとのエッチ楽しんでな。」
「い、今更出来るかっ!!」
わーわーぎゃーぎゃー叫ぶ明梨を尻目に、あたしは『元』自分の部屋に向かう。………………もう次の入寮生は決まってるのか、リネンも新しいものが用意されてる。上の段は………………そのままか。もう半年以上『使ってない』もんな、相方の机もベッドもクローゼットも。………………それにしても、勉強に追い詰められて『逃げ出す』とはね。そのおかげと言ったら罰当たりだけど、この半年ぐらいは一人部屋状態でのんびり出来たし。
その時、部屋のドアが控えめにノックされる。あたしの部屋を訪ねて来るってことは、………………あ、やっぱり返事を待たないか。
「よっ、新崎ちゃん&明梨。………………そこのクローゼットに一応種類分けしてある。好きに持ってきな。」
「と、とりあえず見てみますね………………」
恐る恐る引き出しを開けて、即座に閉じる新崎ちゃん。………………いやいや、そんなに危ないのは持ってない………………はず。
「………………ご、ごめんなさい、私には大きすぎます………………」
「そう?見た感じそんなに差はないと思うけどなぁ。」
いきなりムニッと新崎ちゃんの『膨らみ』を掴む。うーん、これはっ
「う、うわぁぁぁぁぁっ」
………………あ、逃げちゃった。
「………………………………文姉?」
ジト目の明梨に怒られる。
「す、スキンシップだから………………」
「………………そんなんだから、雪乃さんにも逃げられるんだよ。」
ぐさぐさっ。
「ゆ、雪乃はほら、墨森ちゃんがいたから、うん………………そ、それに手の早さならお前だって」
「………………言わないでよ。尊っちは、向こうから落ちてきたんだし………………私に言われても。」
「へーへーそりゃよかったね。」
「………………文姉、バカにしてる?」
「いやー、なーんも。」
適当に明梨をからかって遊ぶ。………………さて、と。もうそろそろ頃合いかな?
「………………………………明梨。」
『真面目モード』の仮面を被ると、明梨の顔も引き締まる。
「………………あたしが跡を継ぐ。だから明梨、お前は新崎ちゃんと幸せになれ。………………それが姉ちゃんからの、最後の宿題だ。いいな?」
「………………文姉、ってことは………………」
「………………ああ。お見合いの話、受けようと思う。………………………………そんな顔すんなって。あたしが見て『こいつはダメだ』って思ったら断るし、何個も見合い状は来てるんだ。一個ぐらいはまともなのがいるさ。」
「………………………………文姉は、それでいいの?雪乃さん以外にも、気になる子は………………」
「いいや、雪乃はあたしの………………最初で最後の『初恋』さ。それ以外の娘はみーんな、雪乃の前じゃただのお地蔵さんだよ。………………ほら、宿題は早いうちにやっちゃわないと後々大変だぞ?現にお前が小3の時なんか」
「う、うっさいなぁっ!!………………………………分かったよ文姉、私は幸せになるから………………だから文姉も、幸せになりなよ?」
「へっ、余計なお世話だっつーの。」
そう言い捨てて、明梨の頭を軽く小突いて部屋を後にする。それからドアのところで隠れていた新崎ちゃんを捕まえて、明梨のことを『託す』。
………………さーて、これで星花でのあたしの仕事は終わりだな。あたしはポケットを漁ると、後生大事に持っていたロケットを取り出す。中身は、雪乃とのツーショット。………………とはいえ、県大会を勝ち抜いた時の集合写真の切り抜きだからほんとのツーショットじゃないけどさ。
でも、これはもう、要らないから。ゴミ箱の上で、そっと手を開………………けなかった。………………あ、あれ?えいっ、このっ!!………………………………だ、ダメか。………………ハハッ、やっぱりあたしは雪乃のこと、忘れられないか。
「………………弱虫文化め。」
握った手のひらをそっとポケットに戻して、そのまま立ち去る。
あたしはやっぱり、あたしのままだった。
実は完結したあと、「退場の仕方がカッコ悪い」とふみふみから文句を言われたのです。確かに叫ぶだけ叫んで虚しく去っていくのは悲しすぎるので、文化のその後を書かせていた抱きました。本当のその後については、【From~】を参照してください。