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Dear my roommates。―???

皆様、大変長らくお待たせいたしました。

................ふわぁ、よく寝たっ。

ボクは、そっと目を開けて周りを見わたす。................それにしても、この天井や景色とももうお別れかぁ。

「うぅ、んっ................」

隣で眠るボクの伴侶................雪乃が、寝返りを打ってボクの方を向く。

「おはよう、雪乃。」

おでこにそっとキスして、ボクは起き上がる。そして、壁に吊るしておいた、いい加減くたびれた自分の制服に袖を通す。

................この制服を着るのも、今日が最後になるんだ。やっと身体に馴染んできたような気がするのに、三年間って早いんだなぁ。

「................ののか?」

その声に振り向くと、雪乃が身体を起こしてぼーっとこっちを見つめてた。

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

「ううん、大丈夫。................私はクセで起きちゃっただけだから。」

「ああ、そっか。」

ベッドに備え付けた目覚ましをのぞき込む。................今は、午前六時前。

「ほんっと、雪乃の早起きのクセは抜けないね。」

「そうね、なにせ5年半も同じ時間に起きてたんだし。................今更もう戻せないわよ。」

そう言うと、鳴り出したアラームをワンコールで止める。ほんと、お見事っ。

「................まぁその点で言えば、望乃夏が早起きできるようになったのもすごいよね。あれだけ『朝の7時なんて、人間の起きる時間じゃなーい!!』なんて騒いでたのに。」

「うぐっ................そ、そりゃあ、まあね?................そうでもして勉強しないと、夢叶えられないし................何より、雪乃との約束果たせないし。」

そう、ボクは六年制薬学部への進学権をなんとか勝ち取った。これからは、この街に住みつつ雪乃にとっての『二つ目の帰る家』になるつもり。

「それより雪乃、もう契約済んだの?」

「................まぁね。一応契約金も入っては来たんだけど................何だか実感が湧かないわね。通帳見ても、ゼロが沢山あってよく分からないし................」

「ははっ、一度でいいからそんなこと言ってみたいよ。」

ボクは苦笑する。................なんと、雪乃はボクよりも何ヶ月も早く『次の居場所』を見つけてきた。それも、スポンサー付きで。

「................東北の方、だったよね。................試合はほとんど見に行けないかもだけど、できるだけ頑張るから。」

「ふふっ、心配しないで。................私の契約金と年俸で、望乃夏のことは支えてあげるから。................だから、その後は望乃夏が私のこと、支えてね?」

「................うん。じゃあこれも、約束。ね?」

そっと指切りして、雪乃を抱きしめる。

「じゃあ、アールグレイ淹れてるね。雪乃もその間に着替えちゃえば?」

「うーん、まだ早い気もするけど........................そうね、最後だしできるだけ長く着ておくのもありかも。」

そう言って雪乃も制服に袖を通した。

「あ、望乃夏、リボン曲がってる。」

「え、ほんと?」

首筋を差し出すと、雪乃がリボンを整えてくれる。

「ゴムも伸びてきたわね。」

「そりゃあ、三年間ずっと使ってればねえ。................あ、雪乃のもやってあげるよ。」

きちんと留めてもらったあとは、雪乃のリボンもきっちりと留めてあげる。

「雪乃のもヨレヨレだね。」

「私のは六年モノだもん。................それにしても、実感わかないや。................私たちがさ、卒業するなんて。」

「ははっ、それはボクもだよ。................はい、できた。」

「ん、ありがと。................そうだ望乃夏、最後に一枚撮らない?」

「お、いいね。................じゃあボクので撮るね。」

テーブルに携帯を立てかけて、タイマーをかける。

「................雪乃、もうちょっとくっついて。................はい、3、2、1。」

フラッシュが光る。................さて、撮れたかな?

「................どう?」

「うん、ばっちりだよ。」

画面を雪乃に見せて確認をとると、雪乃もOKを出す。

「それじゃ、御飯食べに行こ。................あ、食べすぎないでね?」

「もう、失礼ね。」

慣れ親しんだドアを、後ろ手でそっと閉めた。


※※※※※※※


................ふぅ、なんでこう式典って長くてヒマなのかしら................。おっと、ここで立つんだったわね。危ない危ない。........一礼して、また座ってっと。................来賓の話終わり、また立って、礼して、座るっと。

................ほんとに長い................。

何回か意識がすっ飛びそうになりながらも、私達は卒業式を終えて退場となる。在校生の作る花道をしずしずと歩くだけなのに、なんかこう、胸とまぶたに来るものを感じて、歩みが重くなる。................あ、相葉さんに、獅子倉さんも。その後ろには、私たちの鍛えた部活の子達。順々に歩いていって中等部に差し掛かると、じーっと視線を向ける椎原さんと、なぜか涙ぐむ四条さん。................私のことを知る後輩も増えたけど、まだまだ私が知らないことも多い。だから................私はこの後も夢を追い続けるんだ。チラリと後ろを振り返れば、望乃夏も前を向いて歩いてる。................それでいいの、私たちは、自分の信じた道を歩くんだから。

いつの間にか、私は体育館の外を歩いていた。


教室では、泣き叫ぶ子と泣けない子、それに笑うしかない子................と様々で。私はといえば、仏頂面で浮かび上がる涙を抑え込むのに精一杯。................不思議ね、入学した時は灰色に見えたこの世界も、いざ卒業する時にはこんなにもカラフルだなんて。

本当に最後のHRを終えて、私はグラウンドに向けて歩き出す。そこにはもう、バレー部のみんなが集まってて。

「おいっす。先輩、プロでも頑張ってくださいっ。」

「ぐすっ................白峰せんぱぁい................」

「ほらほら、送り出す側がそれでどうすんのよ。................先輩、いつか私もプロ行くんで、そうしたらよろしくお願いします。」

「................へっ、小うるさい元部長がいなくなって、................せ、せいせいしてるぜっ........................か、悲しくなんかないんだからなっ。」

と、みんなの反応もそれぞれで。

「................あれ?文化は?」

「あれ、居なかったっけ?」

「ん?呼んだ?」

ひょこっと後輩の影から現れる。

「どうしてそんなトコに居るのよ................。」

「いやぁ、向こうで長木屋ちゃんが陸上部の、................犬飼先輩だったかな? にすがり付いてわんわん泣いてたからね、ちょっと気になって。」

「................ふぅん、長木屋さんが。」

................あの人の泣いてるとこなんて、想像もつかないや。

「................あー、雪乃。」

文化の真面目な声に顔を上げると................唇を奪われた。

「っ!?」

一瞬で口を離されると、

「................へへっ、餞別のキス。それじゃ雪乃、またどこかでなっ!!」

そう言うと、スタスタと小走りで文化が逃げていく。........................でも、文化の様子がなんか変で................

「........................文化、どうしたのかしら................。」



※※※※※※※※


................やっちゃった................私、雪乃のことを................

誰も来ない体育館の裏手に逃げ込むと、乱れまくった息を整えようとする。........................あ、あれ?お、おかしいなぁ................いつも通りのクールダウンで、全然冷めないぞ................?

「................あ、文姉。」

その声に振り向くと、

「................なんだ明梨................なんでここに?」

「................文姉が走り込んでくるのが見えて................私は、調子良くないからここで休んでた。」

「はぁ?今すぐ保健室行け。................あと、父ちゃん達に『少し遅くなるかも知れない』って伝えといてくれ。」

「えぇ................使いっ走り?」

「いいからさっさと行けって。」

ぶつぶつ文句を言いながらも明梨はこの場を去る。................ふぅ、一人になれたか。

................それにしても、楽しい三年間だったな。女の子を追っかけて、時にはぶっ飛ばされ................いや覗いた私が悪かったな、あれは。コホン、とにかくやりたいことは全部やれ................いや、一つだけ叶わなかったことがある。それは................

「........ふぅ、文化、やっと見つけたっ。」

「................墨森、ちゃん。」

私の叶わなかったたった一つの夢を手に入れた人が、そこに居た。

「................どうしたの墨森ちゃん。生憎だけどここで連れションする気はないよ?」

「つ、連れ................しないよっ、こんなとこで。それより................文化、どうしたの?................その、雪乃から聞いたけど。」

『雪乃』。その名前を聞いただけで頭に血が上っていく。................私の雪乃。でも、手に入れたのは目の前にいる墨森ちゃん。

「................別に?なんも無いけど?」

「なら、なんで................」

「もしかしてさぁ。」

墨森ちゃんへと、一歩距離を詰める。

「................墨森ちゃん、嫉妬してる?雪乃の唇を無理やり奪ったこと。」

墨森ちゃんの顔が青ざめる。................あれ、もしかして雪乃から聞いてない?

「そんな................ど、どうして................」

私は更に一歩距離を詰める。

「どうしてかって?それはねぇ........................雪乃は、私のものだったからだよっ。」

上った血もそのままに、私は感情のリミッターを壊していく。

「................私がバレーを始めたのは、雪乃に一目惚れしたから................でもアタックする勇気がなくて、おちゃらけたキャラで雪乃に近づいて、だんだんと距離を詰めていったんだ。................雪乃に下の名前で呼んでもらった時は、すごく嬉しかった。なのに................墨森ちゃんが横から来てかっさらって行った。........................最初はムッとしたけど、すぐに応援する方に回ったよ。................でも、................でも、時々私の心が疼くんだよっ................雪乃にスキって伝えたくて................雪乃にも、スキになってもらいたくて。」

ゆらり、と手を伸ばして、墨森ちゃんの制服を掴む。

「................どうしようもないんだ、私のこの思いは。........................雪乃はもう手に入らないって自分でも分かってるのに、心も身体も雪乃のことを求めてるんだっ........................。雪乃と寝る夢を見て、一人でシたこともある。こんな汚い私を知られたら終わりだって、分かってるのに................」

「ふ、文化................?」

咄嗟に振り向くと、そこには雪乃が立っていて。

........................終わった。全部雪乃に、聞かれたんだ................。墨森ちゃんのことを離して、私は反対側へと歩き出す。................もう二度と、雪乃と墨森ちゃんの前には顔は出せないなぁ、なんてことを、不思議と冷めた頭で考えていて。

「................文化、行かないでっ................その、全部聞こえてたけど................私も、文化のことスキだよ。」

「................雪乃、やめてよ。................私なんて、ただの変態ヤンデレストーカーなんだから................」

「違うっ!!................違うよ、文化。................気づいてた。文化が私のことスキだってこと。................でも、それ以上に望乃夏への思いが強くて................悩んでたの。文化とはずっと友達でいたいし、かと言って望乃夏を忘れることもできなくて................」

「でも雪乃は、墨森ちゃんを選んだんでしょ?................なら、負け犬は去るだけだよ................」

今度こそ本当に居なくなろうとする。

「................ふ、ふみかの、................文化の、大バカ!!」

雪乃が走ってくる音が聞こえる。................ああ、殴られんだ。................雪乃に一思いにやって貰えるなら、それでいい。................ところが、覚悟してたはずの痛みは来なくて。代わりに、柔らかい感触が顔にあたる。

「........................ほんとに、文化ったらバカなんだから................一目惚れなら、ちゃんと伝えなさいよ................そしたら文化のこと、ちゃんと考えてたかもしれないのに。」

「う、あ................あ................」

ダ、ダメだよっ、そんな................優しくされたら................

「文化、今までありがとう................。裏切った私が言える資格無いけど........................文化のことも、ずっと大切に思ってた。文化が居なかったら、私はバレー部でずっと一人ぼっちのままだった。................今の私を作ってくれたのは、文化、あなたのお陰でもあるのよ。」

そっと背中が撫でられる。................も、もう、ダメっ、

「う、あ、あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

雪乃の胸にすがり付いて、声の限りに泣き叫ぶ。................三年間積もり積もって、言い出せないまま死んでいった私のこの思いを、全部涙に溶かして雪乃の前でただ泣き叫ぶ。そんな私の背中と頭を、雪乃と墨森ちゃんがずっと撫でてくれていた。



※※※※※※

「................ほんとに大丈夫なの、文化?」

「................うん、全部スッキリしたから。」

雪乃の胸で泣き叫んでいた文化は、全部を吐き出し終わると、すっきりとした顔になった。

「................しかし、これだけ泣いたのも初めてだよ。................墨森ちゃん、雪乃、................その、みっともない所見せてごめん。」

文化は深々と頭を下げると、そのまま歩き出す。

「................私もさ、自分の信じる道ってのを突き進んでみることにしたよ。................じゃあな、雪乃、墨森ちゃん。................たまには私の実家、遊びに来いよな。」

そう言うと、片手をあげて振り返ることなくそのまま歩いていった。

「................ほんとに大丈夫なのかな................」

「................大丈夫。文化は、強いもん。」

色んなものでぐしょ濡れになった制服を脱いで、雪乃はずっと文化の背中を見つめていた。

「................さて、私たちも帰りましょっか。」

「そうだね。................って、ああそっか。片付けと荷出しが終わるまでは、寮に居られるんだったね。................なら、行こう。」

雪乃とボクの手が同時に出て、真ん中で組み合わせる。


しばらくしたら、雪乃とは少しの間お別れになる。................もう同じお部屋の中で騒いだり、ちゅーしたり、一緒のお風呂で背中流したりも、できなくなるんだ。................でも、大丈夫。私たちの進む道は違っても、いつかは同じ場所へと帰ってこられる。


だって私達は、『roommates』なんだから。

約半年のご愛顧のほど、本当にありがとうございました。自分自身初めての星花プロジェクト作品なので勝手もわからず、ただただ突き進むことしかできませんでした。それでも内外問わず多くの方に、うちのゆきのの達を愛して頂けたことを感激しています。

さてさて、ゆきののの物語は『一年生の生活』はこれにて〆となります。................まぁ皆さん絶対気づいてますよね、この黒鹿月が作品を『完結』させると宣言した時点で。................そう、私は作品に『完結』を設けることのできないダメ人間ですから。


と、言うわけで進級したゆきののに、4期の不思議コンビまほいつまで乱入した二年生編『Dear my bestfriends』(仮称)、乞うご期待!!

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