伝え合う。―雪乃
「ゆ、雪乃ぉ................」
「................ふん。」
................今日は大晦日。だけど、私の怒りはまだ冷めなくて。
「雪乃ぉ、................いい加減機嫌直してったらぁ................」
「やだ。」
望乃夏の甘える声をばっさりと断ち切る。................そ、そんな甘い声出したってダメなんだからっ!!
「................望乃夏のバカ。」
ぼそっと呟くと、望乃夏がぴくっと震える。
「バ、バカ?」
「ほんとのことじゃないの。................私のことを色々と探るくせに、私には自分のことをほとんど教えてくれないし。」
「ボクのこと?................ああ、過去の事ね。聞きたいなら、話してあげなくもないけど................」
「................いいわよ、今更だし。................それに。」
「それに?」
「................望乃夏に、無理やり話してもらおうだなんて、思ってないから。」
「................もう、どっちなのさぁ...............」
「................さぁ?どっちかしらね。」
話をはぐらかす。................自分でも、何がしたいのか分からない。
「........................と言うか、もうそろそろ仲直りしない?」
「................私だって、仲直りはしたいけど................」
歯切れ悪く、望乃夏に告げる。
「けど?................けど、なに?」
「................望乃夏には私のこと、ほとんど知ってるのに、私は望乃夏のこと、ほとんど知らないし。................ねぇ望乃夏、私にも望乃夏のこと、もっと教えてよ。」
「教えて、ねぇ................そうは言っても、見せられるようなものはほとんど実家に置きっぱなしだし。................それに、さ。ボクの実家に雪乃は連れてけないよ。................あのクサレジジイと鉢合わせするとめんどくさいし。」
「くさ................なんて?」
................いいや、聞かなかったことにしよう。
「................それにしても、さ。」
「................なに、望乃夏。」
「いや、もう少しで今年も終わるんだなって。」
「................そうね、................なんだか、不思議な感じ。」
すっかり闇に包まれた窓の外を眺める。流石にまだ、除夜の鐘の音は聞こえてこない。
「........................」
「........................」
少しの間、お互いに無言になる。
「あ、あの、雪乃っ」
「な、なに、望乃夏っ...............」
望乃夏が、思い切って口を開く。
「その................」
「望乃夏ちゃん、雪乃、歌合戦始まったわよー?」
二人でずっこける。
「................なんか、冷めちゃった................」
「................望乃夏、私は最初の方見るものないから................その、一緒にお風呂行かない?................そこで、話の続きしよ?」
望乃夏の手を取って、一緒にお風呂に行く。
(................むむ、ちょっとだけ................太った?)
トレーナーを脱ぐと、悲しい現実が襲ってくる。................そ、そんなにたくさん食べてるつもりはないんだけど................
「雪乃、入らないの?」
望乃夏が先に脱ぎ終えて待っている。
「あ、今、脱ぐからっ」
慌てて全部脱ぐと、望乃夏の方に向き直って、目を見開く。
「のの、か................」
「................今のボクには、見せられるものと言えば、これぐらいしか無いしね。」
寮のお風呂はもちろんのこと、私の家でもお風呂に入る時はタオルとか手で隠すようにしてたのに................今は、何も隠さずに、むしろ私に見せつけてくる。筋肉のない白いお腹と、その下には申し訳程度に広がる『黒』。視線を上に移すと、微かに成長した峰の上に小さなつぼみ。基本の作りは私とおんなじ、なのに望乃夏は、私よりもどこか神秘的な感じがして。
「................あの、見せるとは言ったけど................そんなにまじまじとは................」
「................だ、だって................」
「................はいはい、そろそろお風呂入ろっか。................話も、あるんでしょ?」
「う、うん................」
いつものように二人で洗いっこをしてからお湯に浸かる。................はぁ、あったかい................。って、いけないいけない。危うく忘れる所だった。
「その、望乃夏................。」
「ん、なーに?」
「...............ありがと。私と、同じお部屋になってくれて。」
「もう、いきなりどうしたの?それに、部屋割りは」
「望乃夏、私と友達になってくれて、ありがと。一緒にデートしてくれて、ありがと。................あとはあとはっ」
「ちょ、ちょっとストップ、雪乃ストップ!!................な、なんでこのタイミングで??」
「いや................今年も終わりだし、そう言えばちゃんと伝えてなかったなって。だから、望乃夏にいっぱい、ありがとうを伝えようと思って。」
「ゆ、雪乃................」
少し時間が空いて、私のほっぺたに柔らかい感触がくる。
「................ボクからもありがとう。こんな変人なボクと仲良くなってくれて、好きになってくれて、................変えてくれて、本当にありがとう。」
私からもお返しのキスをあげる。
「望乃夏................」
「雪乃........................」
見つめあって手を伸ばすと、お互いの身体が触れる。そっと顔を近づければ、次に何をするかは言わなくても伝わる。だって私達は、『友達』だもん。
遠くから、微かな除夜の鐘が聞こえてきた。