隠してたものは。―望乃夏
................雪乃、なんであんなに慌ててたんだろ................?
ゴミ袋片手に階段をトントンと登る。................よっぽどボクに見せたくないもの、なのかな。でも、雪乃がそんなもの持ってるなんて................。ボクって、雪乃に信頼されてないのかなぁ?
ちょっとズキッとした心を抱えたまま、雪乃の部屋の扉をそっと開ける。................あれ、雪乃がベッドの上で何か抱えてる................?
「........................雪乃?」
「ひゃっ!?」
そっと声をかけると、雪乃が飛び上がる。そして、手に持ってたものを慌てて自分の服の中に隠す。
「んー?雪乃、今、何隠したのかな?」
「な、何でもないわよっ........................ほら、ゴミ袋持ってきたんでしょ?そこのゴミ箱の中身、ゴミ袋に空けちゃって?」
「雪乃、話をはぐらかすの禁止。................出して?」
手のひらを差し出すと、雪乃はぺしっと叩いて逃げ出す。
「あっ、逃げた。」
とっさに腕を掴もうとするけど、ボクの腕は宙をつかむ。
「望乃夏、何遊んでるの?ほらお片付け。」
「................雪乃、ひどい。」
ボソリと呟いて俯くと、袖を目に当てる。
「................の、のの、か................?」
「................雪乃とは友達........いや、恋人だと思ってたのに、隠し事するなんて................雪乃に、裏切られた気分だよ................」
「ののか、................ないてる?」
「................泣きたいよ、雪乃に、嘘つかれたんだもん。」
ぶすっとそう言うだけで雪乃がうろたえる。...............ふふっ、雪乃、チョロい。もう一押しもすれば、降参してくれるかな?
「................望乃夏、こっち向いて................?騙してるのは悪かったけど、望乃夏にだって見せたくないもの、一つや二つはあるでしょ?」
「そ、それはそうだけどさぁ................」
「................だから、見逃して?ね?」
雪乃が上目遣いにのぞき込んでくる。................くっ、雪乃................それ、反則なんだからっ......../////
「................で、でも、気になるよっ................雪乃がそれ程隠すだなんて、................その、ボクのえっちぃ写真とかなんじゃないかって、不安で................」
「そ、そんなの持ってないわよっ!?」
雪乃の頭から湯気が上がる。................え、もしかして、ほんとに持ってる感じ?
「........................ほんと、なの?ほんとに、ボクのハダカの写真とか、持ってるの?」
「そんなのも、持ってるわけ、ないじゃないっ!!................ふ、文化じゃ、あるまいし................」
物凄く力を込めて否定される。................え、そもそも安栗さんそういうの持ってるの?................お風呂に携帯持ち込み禁止なんだけど!?
「................やっぱり持ってるんだ................雪乃の、ヘンタイ。」
「だーかーらーっ!!違うって!!」
雪乃が指先まで真っ赤になって怒る。................うん、この分だとほんとに持ってないみたい。
「................ごめん、悪かった。」
雪乃に抱きついて頭を撫でると、雪乃の赤みが引いていく。
「................撫でれば赦してもらえると、思ってるの?」
少し甘い声で雪乃が怒る。
「................シたいの?」
「................今は、いい。」
................なら、何がお望みなのかな................?
「................望乃夏は、私の部屋の家探し禁止。少しぐらいヒミツにしてても、いいでしょ?................これから一緒に『歩いていく』んだから、分かれ道で出会う前のことは、ナイショにしててもいいじゃない。................私も、望乃夏も、これからが楽しくなるのに。」
「................雪乃っ................って、そんないい話っぽい何かに騙されたりしないからね?」
雪乃のトレーナーの首筋から手を突っ込んで、さっき隠したモノを探る。
「ひゃっ!?の、ののかっ、どこ触ってっ................んっ、そこ、くすぐったいっ/////」
雪乃の膨らみとかふにふにのお腹に触れる度に、雪乃がくねくねと動いてやりづらい。しかも、だんだん声も甘くなってくし、耳元にかかるあったかい息のせいで頭がぼーっとしてくる。................くうっ、ど、どこに隠したんだ雪乃っ!?
その時、雪乃のトレーナーのすそからヒラリと何かが落ちる。................これだっ!!
「あっ、」
雪乃が飛びつくよりも先にボクがキャッチする。................なんだ、さっきの写真じゃないか。
「ののかっ、それはダメ!!」
雪乃が腕を掴んでゆさゆさする。や、やめてっ、肩外れるっ、................カバーを外して写真を引き抜くと、腕に鋭い痛みが走る。
「っ!?」
雪乃が、最後の抵抗とばかりに二の腕にかみつく。
「ゆ、雪乃っ、しぶとくない!?」
「それだけは、ダメなのっ!!................望乃夏、見たら絶交するからっ!?」
「................ごめん、もう見ちゃった。」
「ああっ................」
雪乃が力なく崩れ落ちる。
「................これ、入寮した時の写真だよね?................ははっ、ボクったらこんなガチガチな顔して。それに隣の雪乃も、今よりずっとむすっとした顔で................。でもさ雪乃、これのどこがマズイの?」
雪乃はその場にへたりこんで何も答えない。................うーんと、こういうのって大体裏側に何か書いてあるよね。ピラっと裏返すと、雪乃の細かい字で何か書いてある。
《入寮式の日、........同級生のルームメイトと二人で。墨森望乃夏ちゃんって名前みたい。少し変わった子っぽいけど、これから仲良くなっていきたいなぁ。》
................えっと、これは................
「................雪乃?」
「ひっ!?」
「いや、そんなに驚かなくても................その、これってさ................もしかして、お母さん宛への手紙?」
「................ううん、それは私のアルバムに貼ろうと思って忘れてた写真。................望乃夏を初めて見た時のことも、後ろに書いておいたの。」
「................そうなんだ。でも、これのどこがマズいの?」
「................だ、だって................恥ずかしいじゃない。................その、入学した時からずっと気になってて、声かけて仲良くなるタイミングをずっと逃してて................ずっとやきもきしながら、半年もおんなじ部屋で過ごしてたなんて........................今の望乃夏に、バレたくなかったんだもん。」
「やーい雪乃のヘタレ。」
「の、ののかっ!?」
「................でも、そんなヘタレな雪乃がボクは好きです。」
改まってそう言うと、雪乃がまた指先まで赤く染まっていく。
「........................か、かかかかかからかわないでっ!?」
照れ隠しなのか、それともホントに怒ったのかは分からないけど、雪乃に一発殴られた。................しかも利き手の方で、グーで。
................雪乃って、ほんとにかわいいんだから。