家探し................?―雪乃
................うぅ、どうせ私はおデブですよ................
自分の部屋でいじけていると、ノックもなしに望乃夏が入ってくる。
「........................みーつけた。」
「................何よ望乃夏、またお腹でもつつきに来た?」
膝を抱えて睨むと、望乃夏が二、三歩下がる。
「........確かに雪乃のお腹はぷにぷにだったりごつごつだったりして面白いけど................」
「................やっぱりいじりに来たのね。」
「ち、違うっ、違うからっ。」
望乃夏がバタバタと手を動かすのが見える。
「........................そんな雪乃も大好きだよって、言いに来た。」
「................そんな口先だけの『スキ』は聞き飽きてるから。」
少しだけ目線をあげる。
「................もう、しょうがないなぁ。」
望乃夏が私の前にしゃがみこんで、そっと私の顎を持ち上げる。手馴れた様子に少しだけムッとするけれど、私は望乃夏の唇をそっと受け入れる。
「........................ね?口先だけじゃ................いや、これも『口』か」
銀の橋を掛けながら望乃夏がつぶやく。................何度目なのか全然覚えてないけど、やっぱり望乃夏とキスした後は頭がくらくらする。
「................ふぅ、今日の雪乃は................なんて言うか、ごはんの味がする。」
「ご飯の味って................」
「................冗談。いつも通りのあったかくて柔らかい雪乃だよ。」
「........ふん、それを言うなら望乃夏のキスは麻薬よ麻薬。................まだ頭、くらくらするもん。」
「お?直してあげよっか?」
すかさず望乃夏が顔を近づけてくるので、
「................もういい。」
左手で望乃夏を制す。
「................で、これだけの為に私を探してたの?」
「あ、忘れる所だった。................ごはんの支度にはまだ早いから、部屋の片付けを2人でしなさいって。」
「ふーん、わかったわ。........................って、2人で!?」
「うん。2人なら早いだろうからって。」
私は激しくうろたえる。................の、望乃夏に見られたくないものだらけなのにっ!?
「そ、そうね望乃夏、ここは一人でなんとかなるからお母さんの手伝いして?ね?」
「................雪乃、なんでそんな汗かいてるの?」
「そ、そう?今日はちょっと暑いから、いや望乃夏とのちゅーが熱かったのかも!?」
「................雪乃、怪しすぎ。........................ふぅん?なんか見つかるとマズいもの隠してるのかな?」
「な、なんにもないからっ!?」
................と、特に机とか、ベッドとかには何もないんだからっ!?
「................なるほどね?こういうのって大体、隠す所決まってるんだよねぇ。例えば。」
言うが早いか、望乃夏がベッドの下に手を突っ込む。
「やーめーてー!?」
「................んお?なんだろ、これ................」
望乃夏がベッドの下から雑誌を発掘する。................ちょ、ちょっと、まって、
「..................『これでバッチリ!!スポーツ少女のオシャレ:太め編』?」
「だぁぁぁぁ!?」
「................えーと、なになに?................ふーん、なるほど。あ、これ丸がつけてある。................へぇ?」
望乃夏が雑誌の中身と私を見比べる。................す、捨てたと思ったのに................
「................ふぅん、雪乃もそういうの気にするんだ。」
「わ、悪い!?私がそういうのに興味あったら!!................わ、私だって女の子だもん........................。」
................実はバレー部の罰ゲームでおめかしすることになって、慌てて買ったんだけど................恥ずかしくなって二度としないって後悔したんだった................。
「これなんか雪乃に似合うと思うんだけどなぁ。................ん?こっちは?」
「そ、それはっ................」
「................『一週間で痩せられる方法』?」
「................お正月の度にウエストが伸びてるからって、渡されたのよ................」
「................なんか、ごめん。」
................そうよ、分かったのならもうほっといて................
「................さて、ここはこれぐらいにしてっと。そろそろメインディッシュの机に移りますかっと。」
「ののかっ!?」
「さーて、ここは何が入ってるのかな♪」
「やめて望乃夏っ!?」
「................すごーい、ファンシー。お?これは懐かしのプロフィール帳に、色が変わるマニキュアに、変身できるコンパクトに、リコーダーに、................ん?写真?」
「の、ののかっ、それはダメッ!!」
慌てて望乃夏の服を掴んで引っ張ると、望乃夏のズボンがずり落ちる。
「ひゃっ!?」
「わっ!?................もう、雪乃。ちょっと強引すぎない?」
「だ、だって................」
「........................まぁボクもやり過ぎたよ。さ、探検はこれまでにして........................お部屋、片そっか。」
「................望乃夏、写真は、見た?」
「いや、カバーがかかってて見えなかった。」
「................そう。それなら、いいの。」
「................変な雪乃。それじゃ、ボクはゴミ袋持ってくるから。」
気をきかしてくれたのか、望乃夏が部屋を出ていく。................そんな気配りができるなら、最初っから部屋の探索なんてしないで欲しかったんだけど。
私は机の引き出しを開けて、カバーを外して写真を見る。そこに写ってたのは、
(................もう少しで、一年生も終わりなのね。)
まだ着なれない制服に落ち着かない様子の望乃夏と、ちょっと固い顔の私。寮に入った時に撮ってもらった写真の焼き増し。
(................お母さんに渡すつもりだったけど、これは私の。だってこれは................私達の、最初の写真だもの。)
カバーをかけて、また机の奥深くにしまい込む。
(................望乃夏には、ナイショ、ね。)