ショッピングモール。
雪乃とのささやかな甘い時間は、そう長くは続かなかった。
「ほら、着いたよ。」
駐車場に車を停めてシートベルトを解くと、雪乃と繋がっていた右手も自然と解けちゃう。名残惜しそうに見つめるその視線が、雪乃とぶつかって、慌ててお互いにそっぽを向く。
「ほらほら、何してるの?置いてくわよ。」
「あ、はーい。」
お母さんの呼びかけに車を降りると、途端に冷たい風がむき出しの顔に吹き付けてくる。
「うわっ、さむっ!?」
「当たり前でしょ?................ほら、寒いから早く中入りましょ。」
雪乃に手を引かれてショッピングセンターに入ると、今度は一転して熱風に包まれる。
「うわー、混んでるねぇ................」
「そうね、年末だからみんな買うものが多いんでしょ。」
「そっかぁ。」
お母さんの後に続いて、まずは食料品を見てまわる。................ふへー、お肉高いなぁ。これを雪乃が食べるとしたらいくらになるんだろ................?チラリと横目で見た瞬間、雪乃の表情が少しだけ険しくなる。
「........................望乃夏、なんで今私とお肉を見比べたの?」
「イ、イエベツニ。」
「........................なんで棒読みなのよ。................もしかして、私そんなに太く見える!?」
慌てて雪乃が服装を確かめ始める。
「い、いや、雪乃はいつも通りだよ........................。ただ................雪乃がこのお肉食べるとしたらどれぐらいかかるかなぁ、って。」
「................し、失礼な................流石にそんなに食べないわよ。」
「あらあら、そんなこと言って。雪乃はお肉とご飯さえあれば後は何も要らないじゃない。」
私たちの会話を横で聞いていたお母さんが雪乃にツッコミを入れると、みるみるうちに雪乃が赤くなる。
「................もうっ、今バラさなくってもいいでしょっ!!」
「................あー、確かに................」
私は、普段の雪乃の食生活を思い浮かべる。
「................望乃夏ちゃん、一応聞くけど................まさか雪乃、寮だと3食ともお肉、なんてこと無いわよね?」
「................あー、それに関しては大丈夫です。ちゃんとお魚も出てるので................」
「そう、それなら良いけど................ちゃんとお野菜も食べなさいよ?ピーマンとニンジンをこっそり捨てちゃダメよ?」
「流石にもう食べられるよっ!?」
益々赤くなる雪乃。........................そういえば寮のご飯がサラダの時、雪乃がなんか怪しい動きしてたような........................。
「................もう、早いとこ買うもの買って早いとこ帰りましょっ。」
すっかり疲れた様子の雪乃が強引に話の方向を変える。
「そうね、後買うものは................」
と、雪乃のお母さんがメモを片手に目線をさまよわせる。
「........................時間かかりそうだね。ボク達はお菓子でも選んでよっか。」
「うん。」
もちろん、そんなのはただの口実で。雪乃のお母さんへと居場所を伝えると、雪乃の差し出した左手を強く握る。
「................やっぱりこうやって手を繋いでる時が一番安心するね。」
「................そうね。」
ほんのりと赤くなった雪乃の頬を、空いた手でつんつんとつつく。
「ところで、お菓子売り場ってどこ?」
「そっちよ。資材の棚の向こう。................フラフラしないでそこに居なさいよね。」
そう言うと雪乃は手を解く。
「あれ、どうしたの?」
「........................................お花。」
「......................ごめん、着いてく。」
................方向音痴って、辛いね、うん。