家族の形。―望乃夏
皆様お久しぶりです。
雪乃の後に続いて階段を降りると、キッチンに雪乃のお母さんが見えた。
「おはよう、お母さん。」
「あら雪乃、望乃夏ちゃん、おはよう。遅かったわね。」
「........................うん、二人で寝過ぎちゃった。」
................う、ウソは言ってないよね、うん。
「あら、そうなの。........................ふふっ、雪乃が寝坊するのも久しぶりね。この子は帰って来ても滅多に寝坊しないのにねぇ。」
「................わ、私だってたまにはゆっくりするよぉ................」
「ふふっ、そうね。」
雪乃とお母さんとのやり取りをぼーっと眺めていると、なんだか焦げ臭い匂いがしてくる。
「ちょっ、目玉焼きがっ!?」
とっさにコンロの前まで走ると、火を止めてフライ返しで目玉焼きを剥がしにかかる。
「あらま、ごめんなさい................」
「いえ、辛うじて大丈夫みたいです。................なんとか食べられそうかな?」
クロコゲまでは行ってないし、少しカリカリしてるぐらいが美味しいもんね。
「ダメよ、こんなの食べさせるわけにはいかないわ。」
そう言うが早いか、雪乃のお母さんはフライパンをひったくって流しに沈めてしまった。
「................こ、焦げたとことか美味しいのに................」
と、雪乃も残念そうな顔。
「待っててね、今作り直すから。」
新しいフライパンを片手に、雪乃のお母さんが歩み寄る。
(........................雪乃、お母さんの料理の腕は?)
(................想像に任せるわ。)
................か、考えないでおこ................
そんな心配をよそに、目玉焼きの方は無事(?)焼きあがった。
「さ、ご飯にするからお父さんを呼んできて。」
雪乃が台所を出ていくと、途端に私は手持ち無沙汰になる。配膳を手伝おうとお皿を持つけど、誰が誰のか分かんないし........................
「あら、望乃夏ちゃん。お客さんは座ってていいのよ。」
「いえ、ただお世話になるだけってのも悪いですし。」
「あら、そう?................あ、そのお椀は雪乃ので、その箸は私のね。あ、そこでいいわ。」
そんなことをしていると、雪乃が帰ってくる。
「あら望乃夏、大人しく座っててよ。」
「いや、手持ち無沙汰だし手伝おうかと思って。」
「そうよー、雪乃なんて家のこと手伝ったことないから見習って欲しいわね〜。」
「お、お母さん................」
雪乃がちょっぴり赤くなる。................へぇ、いいこと聞いちゃった♪
「おや、おはよう。昨日は眠れたかい?」
後ろからの声に振り向くと、雪乃のお父さんが新聞片手に待っていた。
「................もう、お父さん。新聞読みながらご飯食べるの、まだ続けてたの?」
「こればっかりはクセだからな、治せないさ。」
と、席に座って新聞を広げる。
「........................もう。望乃夏の前なんだからちゃんとしてって。」
すかさず雪乃が新聞を取り上げようとすると、それを器用にかわす雪乃のお父さん。
「はいはい、遊んでないでごはんにしましょ。」
その光景を、ご飯をよそっていた雪乃のお母さんが手を打って止める。
「望乃夏ちゃんはこれぐらいでいい?」
「あ、はい。」
ご飯を受け取って席に着いてからも、雪乃とお父さんとの攻防は続いていて。それをなだめるお母さんも少し呆れ顔。そんな光景を眺めていると、不意に景色が歪んでくる。
(........................あれ?)
なんだか、目の奥が熱い................
「の、望乃夏................どうしたの?」
攻防の手を止めて、雪乃が顔をのぞき込んでくる。
「................わ、わかんない、けど................雪乃達を見てたら........なんか、いいなぁ、って................」
「................望乃夏................」
そんな私を、そっと雪乃のお母さんが後ろから抱きしめる。
「................よしよし、望乃夏ちゃんはきっと私達を見て寂しくなったのね。................自分ちじゃこんなのなかったろうし。でも大丈夫。................今からは、ここが望乃夏ちゃんのもう一つの家よ。」
「お、おか................あ、さん................?」
ふと呟くと、抱きしめる手はもう二本増える。
「................なら、私は望乃夏のお姉ちゃんね。」
「................ゆき、の................?」
「................なら私は望乃夏さんのお父さん、かな?」
対面にいる雪乃のお父さんも声をかけてくる。
「あ、ありがとう、ございます................」
........................家族って、あったかいんだなぁ........................。
................と、思った数分後には、前言を撤回したくなった。
「もう、雪乃。目玉焼きに胡椒は定番でしょ?」
「あらお母さん、目玉焼きにはソースが一番よ。」
「二人共みっともないぞ。目玉焼きには醤油と昔から決まってるじゃないか。」
「「それはないわ」」
................家族って、あったかいかなぁ................?
「................ねえ、望乃夏は何派?」
あ、火の粉が飛んできた。
「........................し、塩派................」
「「「邪道」」」
........................お、おいしいのに........................。