宿題。―望乃夏
………むー………わかんない。
「はぁ、もうめんどくさい。」
私がシャーペンをぶん投げると、隣に座る雪乃が呆れ顔になる。
「もう、まだ10分も経ってないわよ。ほんっとに望乃夏は飽きっぽいんだから。」
「………だってさぁ………」
ぶん投げたシャーペンを手に取って何となくペン回しする。
「………冬休みってゆっくり休むためのものじゃないの?なんで宿題なんかあるのかなぁ……………」
雪乃が更にため息をつく。
「………そんなの、望乃夏みたいなズボラを宿題なしでほっといたらどうなるか分かったもんじゃないからでしょ?」
「ひ、ひどいなぁ………」
………自分でも否定は出来ないけどさ。
「それよりも望乃夏………ね、さっきのやつもう一回見せてよ。」
雪乃が妙にキラキラした目で私の指先を眺める。
「えぇ…………?こんなのが面白いの?」
ご指名通りペン回しをすると、雪乃は食い入るように見てくる。調子に乗って、さっきよりも難しい回し方をする。………あっ。
「………望乃夏、痛い。」
「………ごめん。」
………まさか、勢い余って飛んでくとは。
「………ま、まぁ、おでこで良かったじゃん………」
「………おでこでも痛いもん。」
むすーっとむくれる雪乃。………もう、しょうがないなぁ。
「………はい、痛み止め。」
むき出しになったおでこに軽くキスすると、雪乃は満足げに微笑んだ。
「………って、こんなことしてる場合じゃないわね。」
と、雪乃はまた机に向かう。
「………いーなー、雪乃だけ机。」
私はベッドをぽんぽんと叩く。
「………しょうがないでしょ、私の部屋だもん。」
下がすぐベッドだと上手く書けないから適当な雑誌を台にしてるけど、これだってやりづらい。
「それなら、もうそろそろ机代わってよ。」
「ダメよ。これは私の机なの。」
「…………むー、それなら……雪乃の背中で宿題しちゃうよ?」
背中をチョンと触ると、雪乃が変な声を上げる。
「………わ、わかったからっ………」
雪乃が渋々椅子から立ち上がる。場所を入れ替えようと机を覗くと、
「ふぅん、これが雪乃の宿題かぁ。」
「そうよ、難しくて手こずってるの。」
「………あ、ここ間違ってる。それにここの式だとこの値は出ないよ?」
「………ふぇ!?」
雪乃の書いた丸っこい字を辿っていくと、そもそも立てた前提から間違ってるのが一目でわかった。
「………もう、それじゃやり直しじゃない………。」
雪乃がすっかりしょげかえる。
「………実はこっちも困っててね………」
と、雪乃に私の宿題を見せる。
「………望乃夏、これ間違いだらけよ。ほら、ここなんか滅茶苦茶よ。」
「………だよねぇ。…………ところで雪乃、ものは相談なんだけど……」
………数分後、そこには私の宿題を解く雪乃と、雪乃の宿題を解く私がいた。
「ふぃー、なんとか終わったよ。」
振り返って雪乃を見ると、雪乃は既に終わらせてベッドを背もたれにマンガを読んでいた。
「…………最初っからこうしてれば良かったわね。」
雪乃が悪びれもせずに言ってのける。……………やっぱり雪乃、少し変わってきたかも?
「………さて、もう遅いし今日はもう寝ちゃいましょ。」
雪乃がマンガを閉じて布団に潜り込む。そして、不思議そうに私のことを見る。
「………どうしたの?入らないの?」
「むしろ入っていいの!?」
何を今更、と言うように雪乃が視線を向ける。
「………ああ、望乃夏の布団なら『一緒に寝るから』って伝えてあるから用意してないわよ。」
「…………ほんとに?」
………こういうことは手回しが早いんだから………
「お、お邪魔します………」
そっと布団をめくって雪乃の隣に寝転がると、雪乃の手が伸びてきて私の身体を引き寄せる。
「………おやすみの挨拶をまだ言ってないわよ?」
「…………はいはい。」
顔を近づけると、雪乃にそっと口付ける。
お布団の柔らかさと雪乃の熱が、私の全身をくすぐる。………いつもならすぐに寝れる私だけど、今夜はなかなか眠れそうにない。