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部屋に帰って。―雪乃

望乃夏がお母さんに自分のことを打ち明けるのを、私は黙って聞いていた。………………望乃夏のこと全部知ったつもりでいたけど、まだ知らないことがあるみたい。

その時、お母さんが言った。

「なら、うちの子になる?」

その提案を聞いた時、私の心が跳ねた。………………望乃夏が、うちの子に、なる?…………それって………………望乃夏とほんとの家族に………………。

望乃夏の返事を今か今かと待つと、望乃夏は提案を断った。………………そうよね、流石に………………すぐには決められないわよね。少しだけ残念に思うと、また玉ねぎに手を伸ばそうとして………………望乃夏の顔に、光るものを見つける。………………あれ、望乃夏…………?もしかして………………

椅子を降りて望乃夏の後ろに立つと、バレないようにこっそりと泣いてるのが分かった。

「あ、あの、望乃夏………………」

意を決して声をかけると、望乃夏はこっちを向かないで言葉を返してくる。

「とうしたの雪乃?」

「その………………と、とりあえず来てっ。」

なんて言ったらいいのか分からなくて。………………とりあえず、望乃夏の手を引っ張って私の部屋へと連れ込む。

「………………もう、何なの。」

望乃夏が不満げに呟くけど、私と目線を合わそうとしない。

「………………望乃夏。」

ほっぺたを持って、強引にこっちを向かせる。

「………………やっぱり泣いてるじゃない。」

「それは、玉ねぎ刻んでたからで」

「嘘。」

………………絶対、そんなんじゃない。

「………………ねぇ望乃夏、うちの子になるのがそんなに嫌?」

「………………そういう訳じゃないよ、ただ…………」

「なら、なんで断ったの?………………あそこで『うん』って言えば、望乃夏はあんなひどい家にもう帰らなくてもいいんだよ?………………そしたら、望乃夏はずっとニコニコしてられるし、あったかいお布団でスヤスヤ寝れるんだよ………………?無理やりお嫁さんにされることもないし、それに………………」

「……………………雪乃はさ。」

突然話を遮られる。

「………………絶対に勝てない相手がいたら、スパイクすら打たないで土下座するの?」

「い、いきなり何を言うの…………?そんな訳ないじゃない………………絶対に勝つって気合い入れて攻め立てるに決まってるじゃない。」

「でしょ?でもね、今雪乃は………………僕に同じことをさせようとしたんだよ。戦わないで逃げて、安全なとこでぬくぬくと暮らせ、って。」

「あっ………………」

………………わ、私………………

「………………できないよ、そんな事。………………ご好意は嬉しいんだけどさ、何もせずにボクだけ安全なとこに逃げて、母さんを置き去りにするってのは、ボクには出来そうにない。………………戦うよ、まずは。ボロボロになっても、絶対に認めてもらうから。………………この、ボクの生き方を。」

「の、望乃夏……………………。」

いつものどこかとぼけた様子はすっかりと影を潜めて、しっかりとした声でそう断言する望乃夏。

「………………そう、戦うんだ………………。望乃夏の決めたことなら、私も反対しない。でも………………頑張りすぎちゃダメだよ。もうダメだってなったら、私のとこに逃げてもいいから。」

望乃夏の頭を、よしよしと撫でてあげる。………………今日は、私が望乃夏のことを慰めてあげる。背中をさすれば、望乃夏は誤魔化してた涙を全部流し出す。

「………………もう、望乃夏。顔が大変なことになってるわよ。ほら、貸しなさい。」

トレードマークのアンダーリムをそっと外すと、顔を拭くふりをしてそっと唇を奪う。泣くのも忘れてぽかんとする望乃夏を今度は本当に拭いてあげてから、

「………………勝利の女神の…………、よ。………………あのね望乃夏、私ね………………大一番の試合だと、スパイクを外したことないの。………………時には返されることもあるけど、コートの外に外したことはないのよ。そんな私の…………だから、望乃夏もきっと大丈夫。」

自分でも何言ってるのか分かんないけど、望乃夏もきょとんとしてる。………………でも、すぐに笑い出す。

「の、望乃夏………………真面目な話なんだから………………」

「ごめんごめん。………………でも、確かに受け取ったよ。………………雪の女神からの、あったかい勝利のキスを。」

「の、ののかぁ………………キ…………って、ハッキリ言わないで………………恥ずかしいもん………………」

「………………もう、自分からしておいてそれはないんじゃないの?」

「…………だ、だって………………」

「…………んもう、わかったわかった。………………でも貰ってばっかりだと悪いからさ………………お返し、いいかな?」

私の心臓がちょっぴり跳ねる。

「い、いいよ……………………んっ///」

目を閉じて顔を前に出すと、すぐに望乃夏の唇がぶつかってくる。………………自分からするのと、してもらうのだとちょっぴり違う。思い切って口を開けてみると、戸惑いながら望乃夏が私の中に入ってきて………………あっ///

びっくりして身体を引くと、支えを失った望乃夏がひっくり返る。

「あっ………………」

二人で顔を見合わせて、慌ててそっぽを向く。

(……………………な、何だったの………………今の………………)

ぼーっとする頭を振って思い出そうとするけど、ますます身体が熱くなる。

「………………あ、あの………………雪乃………………」

「………………のの、か………………?」

「………………だ、大丈夫………………?」

「………………う、うん………………」

………………い、今の、何だったんだろ……………………身体中を何かが走って………………

「……………………その…………びっくりした?」

「う、うん………………でも、私が口開いたから……………………」

「……………………ごめん。」

………………二人して、お互いの顔を見れなかった。それは、お母さんがお風呂を呼びに来るまで続いた。

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