じゃがいも、人参、玉ねぎ。―望乃夏
今回はシリアス回ですの。
※間違えて番外編の方に接木してしまいました“〇| ̄|_
じゃがいもを丁寧に芽取りして、すぐに水を張ったボールへと投げ込む。
「ちょっと望乃夏っ、ペース早すぎっ」
横でピーラーを使って皮をむく雪乃が音をあげる。
「………………むしろ雪乃の方が危なっかしくて見てらんないよ………………」
あっ、また指の皮ごと剥きかけた。
「………………すいませんお母さん、雪乃からピーラー取り上げてください。終わらないです。」
「あらあら、全く。」
雪乃のお母さんが、ひょいっと雪乃からピーラーと剥きかけのじゃがいもを取り上げる。
「………………もう、どれだけ厚く剥いてるの?これじゃ溶けて無くなっちゃうわ。」
横目でザルを見ると、じゃがいもは私がボールに投げ込んだ時よりニ回りぐらい小さくなってる。
「………………とろみが付いておいしくなりそうだね。」
私の横で凹む雪乃を、そっとフォローする。
「………………とろみよりも、甘さが付いて欲しいわね。」
「雪乃、それ無理。」
あ、また凹んだ。
「雪乃、ヒマなら玉ねぎの皮を剥いて。」
と、すかさず雪乃のお母さんが仕事を振る。………………確かにそれぐらいならできそう。………………けど、なんか不安が。
「………………雪乃、玉ねぎを握りつぶしちゃダメだよ?」
「しっ、失礼ね………………私を何だと思ってるの?」
あ、今度は怒った。それでも、黙々と玉ねぎの皮を剥いでいく雪乃。………………こういう単純なのが好きなのかな?
「はい、芽取り終わりました。」
「あら早いわね。じゃあ次は――」
「人参…………はピーラーが使われてるのでできませんね。じゃがいもをやっておくので人参の方もお願いできますか?」
「あら、気が利くわね。じゃあお願い。」
皮がなくなったじゃがいもを四等分にする。流石に主婦である雪乃のお母さんが剥いたのは形も揃っててやりやすい。…………なお雪乃が剥いたのは、ほとんど切らずにそのまま使うことにした。
「はい、人参も剥いておいたわ。」
「あ、ありがとうございます。」
人参を受け取って、まずは真っ二つにする。それからまた真っ二つにして刻んでいくと、雪乃のお母さんが私の手つきを見て呟く。
「へぇ、慣れたものね。雪乃とは大違いね。」
「ちょっ、マ………………お母さん!?」
「雪乃はいくら教えても、手つきは危なっかしいのよねぇ。まぁ、外で遊んでばっかりでそんなにお料理手伝ってくれなかったのもあるけど。………………それにしても、雪乃はもうママって呼んでくれないのね。」
…………………………へ?
「………………だ、だって………………恥ずかしいもん。」
「あらあら、大人になったのね。」
雪乃のお母さんは、雪乃のことをなでなでする。
「ちょっと………………もう、やめてよっ………………望乃夏の前で…………」
雪乃がちょっとだけ赤くなる。………………いいなぁ。
「………………雪乃、玉ねぎ、貰うね。」
剥き終わったのを手に取って、まずは二等分。それから線にそって………………
「慣れたものねぇ。家でも料理してるの?」
雪乃が真っ赤になったあたりで、雪乃のお母さんが戻ってくる。
「………………はい、少しは。………………最低限の料理はできた方がいいと、母に………………」
「まぁ、そうなの。………………望乃夏ちゃんがうちの子だったら助かるのにねぇ。」
「ちょっとお母さんっ!!」
雪乃が後ろで慌てる。…………けど。
「………………そうですね。この家の子になってみたいです。………………普通の、家の子に。」
包丁を持つ手に力が入る。
「………………私の家では、料理の他にも裁縫や洗濯とかも教えて貰いましたけど…………それは父の命令なので。婿に逃げられては困るから引き止められるように、と。」
淡々と語りながら、包丁を動かす。
「………………道具なんですよ、私。親父の出世と金儲けのための。………………金持ってそうなのと結ばせて、親戚になって好き勝手振る舞う為の。」
………………あ、玉ねぎ切ってたらやっぱり目が痛くなってきた。………………だ、ダメだなぁ。やっぱり、玉ねぎ切ると………………な、涙が………………
「………………望乃夏ちゃん。」
そっと、肩に手が置かれる。
「………………ほんとに、うちの子になる?」
さっきまでのどこかほんわかした様子は消えて、雪乃のお母さんは真剣な顔でそう切り出す。
「……………………そうですね。出来るなら………………なって、みたいです。」
包丁を置いて、立ち尽くす。
「………………でも、お断りします。ご好意は嬉しいんですけど………………もう少し、自分でも話し合ってみようと思います。………………それにこの家の子になったら、甘えんぼな『雪乃お姉ちゃん』のお世話も大変そうですし。」
「の、ののかぁ………………」
また真っ赤になる雪乃。
「ふふっ、確かにこのお姉ちゃんは甘えんぼさんね。」
「………………お母さんまで………………」
二人で雪乃をからかって真っ赤にする。その後、雪乃のお母さんは真面目な顔に戻って、
「………………でも、無理しちゃダメよ。勝てそうに無かったら、いつだってこの家に来ていいから。………………大丈夫よ、仮にも雪乃をここまで育て上げたんだもの。今更娘が一人増えても変わらないわ。」
「………………ありがとう、ございます………………」
………………だ、ダメだなぁ………………玉ねぎの効果がまだ切れないや……………………涙が、止まらないや………………。