ぬいぐるみ。―雪乃
今年度も宜しくお願いします。
「ただいまー、………………はぁ。」
久しぶりだからスーパーの場所忘れかけてたわ………………。それにしても………………こんなにたくさん買い物があるなんて、今日の晩御飯は何かしらん♪
お母さんの料理のことを考えてうきうきしながら部屋に戻ると、望乃夏が浮かない顔してぬいぐるみをつんつんしてた。
「………………望乃夏?」
「ひゃんっ!?……………………あ、雪乃………………帰ってたんだ。」
「………………望乃夏、人の顔見てそんなに驚くことないじゃないの………………。」
ほんっとに失礼ね……………………。
「あ、いや、………………ぬいぐるみに気を取られてて………………。」
「へぇ、望乃夏はその子がお気に入り?」
と、ベッドサイドの羊のぬいぐるみを取り上げる。
「………………うん。モコモコしてて、雪乃みたい。」
「わ、私っ!?」
「雪乃も私服はモコモコしてるし、むぎゅっとするとあったかいし。」
「………………の、望乃夏は私をぬいぐるみと勘違いしてない?」
「まさかぁ。だって雪乃より抱き心地いいぬいぐるみなんて見たことないって。」
「やっぱりそう思ってるんじゃない!!………………はぁ、もう。」
………………まぁ、お布団の中で望乃夏に抱っこされて安心してる私が言えたことじゃないけど。
「……………………あげるわ。」
「………………へ?」
「………………そんなに気に入ったなら、このぬいぐるみ、望乃夏にあげるわよ。」
「えっ、そ、そんな、悪いよ………………」
「いいわよ。………………私達のお部屋も殺風景だし、望乃夏も気に入ってるみたいだし。……………………そうだ、何なら他にも何匹か連れてこうかしら?」
今までは、望乃夏のことをよく知らなかったし、私のイメージを壊したくなかったから持ってかなかったけど、望乃夏とも打ち解けたし、ちょっと寂しかったから。………………流石にお布団の中以外で望乃夏をむぎゅーってするのは、恥ずかしいし。
「………………ありがと。大事にするね。」
望乃夏は、ぬいぐるみを大切そうに抱きしめる。………………それを見て、私はなぜかモヤモヤして、そっと手を広げて待ってみる。……………………来なかった。
「………………ん、雪乃?どうしたの?」
「………………な、何でもない。」
………………やっぱり、あげなきゃよかったかも。
もやーっとしたものを抱えたまま、私達は下へと降りていく。
「あら、どうしたの?おやつ?」
台所では、お母さんが晩御飯の準備をしてた。
「あっ、今日はカレーなんですね。」
まな板の上の具材を見て望乃夏が呟く。
「あら、鋭いわね。…………でもうちのカレーは他とは違うから楽しみに待っててね。」
お母さんが私に目配せする。……………望乃夏、ごめんね。うちのカレーは…………
「…………ああ、かなり甘口なんですね。雪乃が辛いのだめだから。」
「ののかっ!?」
そこは察して黙っててよ!?………………は、恥ずかしい……………………。
「あら、バレちゃったわね。………………その通りよ。でも辛いのダメなのは私もなの。だから主人はレトルトの辛口を混ぜて食べるんだけど………………望乃夏ちゃんは?」
「あ、私は辛口でも大丈夫です。」
「そう、ならお鍋を二つに分けて作るわね。」
と、お母さんが鍋をもう一つ用意する。
(ねぇ雪乃、どれぐらい甘いの?)
(甘口って言うけど、そんなに甘くないわよ?)
むしろ辛いわね。
「………………あ、お手伝いしますよ。お世話になってばっかりだと悪いので………………」
「いいわよ、お客さんにご飯作らせるなんて悪いわ。」
「いえいえ、やらせてください。雪乃の好みも知りたいので。」
「あら、そう?なら………………お願いするわね。」
なんてやり取りを、望乃夏とお母さんがする。………………きょ、今日のカレーは、望乃夏の手作り………………。
「あっ、あの………………私も、手伝う………………」
「そう?なら雪乃には………………」
「いや、雪乃には味見をお願いするわね。」
間髪入れずにお母さんに遮られる。………………なんで?
「………………雪乃、あなたの得意料理はなんだっけ?」
「………………ご飯。」
「…………正確には?」
「…………ご飯のスイッチを入れること………………」
「正直でよろしい。」
………………ぽかーんとする望乃夏に、お母さんがネタばらしをする。「………………雪乃の料理はね、見てて危なっかしいのよ………………指とか切りそうで。後は、辛くならないように自分でアレンジしようとするから………………」
………………望乃夏の視線が突き刺さる。
「………………雪乃、お料理できなかったんだ。」
「………………わ、悪い!?」
………………望乃夏にだけは、知られたくなかったのに。