試験勉強。―望乃夏
「………………ねぇ、まだぁ?」
雪乃のほっぺたをつんつんしながら、雪乃の答えを待つ。
「ま、待ってよ………………」
「………………もう10分ぐらい待ってるんだけど?」
「………………うーん………………あ、そうだ。」
「お?思いついた?」
「そうね………………あったかいとこ?」
「なんで疑問形なのさぁ………………。まぁ、今はそれで納得しておくよ。」
きっとそれは、雪乃が考えに考え抜いて出した答えだもん。
「………………ごめんね望乃夏…………こんなのしか出なくて………………。」
「いいのいいの。無理に聞いたこっちが悪かったよ。」
雪乃を解放して、私も自分のベッドに戻る。
「ふぅ………………今日は疲れたね。」
「そうね。………………いろんな所行ったし、色んなもの買ったし。」
「疲れたし、もう寝ちゃおうかなぁ。」
ぽふり、と布団に埋まると、すぐに眠気が迎えに来る。………………はぁ、お布団最高。
ごろん、と寝っ転がって、雪乃を待つ。けど、当の雪乃は自分の机をがさごそと漁り始める。
「………………ゆきのー、ねないのー?」
ぽんぽんと、自分の横の布団を叩いて手招きするけど、雪乃は誘いに乗ってこない。
「明日の準備をしないと。」
「………………別にいーじゃんそんなの明日で。」
「………………前の日のうちに準備するのが基本でしょ?もし足りないものとかあったらまずいもの。」
「………………そうかなぁ。」
足らないものがあったら「忘れました」って言ってケロッとしてる方だから、あんまり持ち物について考えたことないや。
「そうよ………………。それに望乃夏、来週から試験よ?大丈夫なの?」
「んー………………明日から頑張る。」
「………………これはダメそうね。」
雪乃のため息が聞こえる。そして、
「ほーら、望乃夏も勉強しなさいっ」
布団がふっ飛んだ。いや、引っぺがされた。
「ちょっと、何すんの雪乃!?」
「………………このままじゃ心配だから、私が勉強見てあげるわ。」
「いいよ、別にそんなの………………。」
「ダメよ………………望乃夏だけ原級留置とか嫌だもん。」
「大丈夫だって………………それに雪乃は普通科でしょ?ボクは商業科………………雪乃とはやってることが違うから………………」
「…………そう、あくまでもやらないつもりね?」
雪乃のひんやりとした声が降ってくる。………………おや、雲行きが怪しくなってきた。
「しょうがないわね……………………そろそろ来る頃かしら。」
「………………?」
ちょうど良く、私達の部屋の扉がノックされる。
「入って。」
そう言うと勢いよく入ってきたのは、
「おっまたせー!!安栗 文化、ただ今参上!!」
………………なるほど、意地でもボクに勉強させる気か………………。
「文化、早速だけど望乃夏が意地でも寝る気みたいだから………………起こして?」
「了解。」
突然、私の足首が掴まれる。…………へ?…………え?
「………………うぎゃあああああっ!?」
足の裏に激痛が走る。
「うわぁ、いい反応。」
喜々として私の足裏のツボを押す安栗さん。
「い、いだいいだいいだいやめでっ」
「ん、なに?もっと?」
「ひぃっ!?」
「………………文化、その辺にしてあげて。…………見てるこっちも痛いわ。」
雪乃がティーカップを持ってきて、こっちの様子を眺めてる。
「ゆ、ゆきのぉ………………死ぬかと思ったよぉ………………」
「素直に起きないからよ。ほら、文化と一緒に勉強しなさい。」
「………………はーい。」
のそのそと起き上がってカバンを取りに行く。………………むしろ教科書持って帰ってきたっけかなぁ?
「へへっ、雪乃と一緒に勉強かぁ。」
「文化には望乃夏の勉強を見てもらうわ。………………私には教えられないことも多いし。」
「そう?基本的なのは共通なはずだから、別段特別なのってないはずだぞ?」
「あら、そう?」
………………雪乃、楽しそう。………………うーん、勉強するって言っといて、雪乃は安栗さんと楽しそうにしてるのがなんか腹立つなぁ…………。………………きっとテストで見返してやるっ。
「望乃夏、教科書見つかった?」
「うん、あったあった。」
………………奇跡的に(?)カバンの中から教科書が見つかって、二人の待つテーブルへと戻る。
「よーし、じゃあ問題出し合うか。」
「うん。」
………………20分後。
「………………墨森ちゃんさぁ………………よくこの高校受かったね………………」
「………………自分でも不思議だよ…………それに安栗さんも、よくもまぁその調子で及第点貰えたね………………」
「言わないでよ………………」
「………………何やってんのよ二人共。」
………………いろんな意味で撃沈した1-5組の姿があった。
……………………そんなことの繰り返しで、一週間があっという間に過ぎた。
(………………随分と久しぶりに勉強した気がする………………。)
しょぼつく目を何度も擦りながら、裏返しの答案用紙を睨む。
(………………雪乃には、負けたくないな。)
基本五教科は、雪乃と同じ。だからこそ、教えあえるし教えてもらえる。だから………………負けたくないって思える。
(それに、安栗さんにも。)
私の知らない雪乃を知ってる、密かなライバル。とぼけた態度だけど、実は私よりも頭がいいってのはこの一週間でよく分かった。それに、全部同じ科目、同じ問題だから………………どっちが上なのか、ちょっと気になる。………………それに、『賭け』もあるしね。
試験開始の合図と共に、私は問題用紙を裏返した。
これにてゆきのの第二部、完結となります。
ゆきのの第3部をお楽しみに。