おふろあがり。―雪乃
「……………の、望乃夏っ!?」
いきなりフラついた望乃夏を、私は抱きとめる。
「………………もう、しっかりしてよ。」
「ご、ごめん………………ちょっと、長風呂しちゃったみたい…………」
「………………もう。」
ため息をつくと、望乃夏をもっとしっかり支えようと身体を動かす。
「そ、その、雪乃………………一旦、座らせて………………。」
「………………どうしたの?」
「…………こ、これはちょっと、刺激が………………」
何よもう………………と望乃夏の方に視線を向けると、……………………望乃夏の顔は、私の胸板とキスしてた。
望乃夏の鼻から、私の胸にぽたり、と一滴血が落ちる。それが引き金になったのか………………私の頭が、一瞬で沸騰する。
「の、のののののののののののののかかかかかかかかか!?」
「ご、ごめんっ」
望乃夏が飛び退いて、そのはずみに浴槽の中で尻餅をつく。でも、そんなのを助け起こす余裕なんて無くて。
「ひっ………………ひっ………………」
「ゆ、雪乃………………!?」
「ひっ………………ひゃあああああああああああああああ!?」
思いっきり叫びながら、無我夢中で脱衣場へと猛ダッシュする。周りの目とか、後ろから聞こえる望乃夏の声も全部振り払って、脱衣場へと猛ダッシュ。
脱衣ロッカーから服を取り出したのは覚えてるけど、その後どうやって着て、どんな風に部屋まで帰ったのかは、全然覚えてない。
お部屋の自分のベッドの上で、布団を被って膝を抱えていると、扉が開く音がする。………………誰なのかなんて、背中向けててもわかる。
「………………ゆ、雪乃…………。」
「………………………………」
「………………雪乃?」
「こ、こないで………………」
布団をつかむ手に力がこもる。
「………………その、………………ごめん。」
「……………………」
「………………もちろん、わざとじゃないよ。立ちくらみしたのはホントだし、それを雪乃が抱きとめてくれたのは事実だし………………その、受け止めるとこが悪かっただけと言うか………………その………………」
「………………そうね。鉄板で顔を受け止められたら、そりゃ痛いよね。」
「て、鉄板って………………」
………………鋼鉄製のまな板だもの、かなり痛いわよ?
「……………………あったかかったよ、雪乃。」
「………………いきなり、何を言うの?…………お風呂入ってたから、当然でしょ?」
「………………あと、柔らかかった。」
「………………どこが?」
「………………支えてもらった時。鉄板じゃなくて、ちゃんとクッションだったよ。」
「の、ののかっ!?」
思わず布団を跳ねのけて、望乃夏の方を向く。………………呆気にとられる望乃夏の顔が、次第に変になっていく。
「ゆ、雪乃っ………………ぷぷっ、か、鏡見て……………………」
いきなり何よ………………と鏡を覗くと、髪型がものすごいことになってて…………思わず自分でも吹き出した。
「………………ちゃんと乾かさないでお布団被ったからだね。ほら、じっとしてて。」
望乃夏がタオルを私に被せて、わしゃわしゃとかき回してくる。
「ほら、動かないで。また現代美術みたいな頭になるよ?」
「………………はーい。」
しばらくの間、私は望乃夏にわしゃわしゃされることにした。
「……………………ねぇ、望乃夏。」
「うん?」
手を止めずに望乃夏が返事をする。
「………………その………………柔らかかったって………………ほんと?」
望乃夏の手が一瞬止まる。
「………………うん、………………ムニュって、感じ………………」
「そ、そう………………」
………………わ、私、なんでそんな事聞いてるんだろ………………。真っ赤になった顔を隠そうとすると、望乃夏の手つきがぎこちなくなったのに気がつく。
「………………望乃夏?」
「あ、ご、ごめん、聞いてなかった………………な、なに!?」
「………………まだ何も言ってない。……………………その、望乃夏は、私のこと、好き?」
「…………い、今更どうしたの?」
わしゃわしゃする手つきがもっとぎこちなくなる。
「………………だって、望乃夏みたいに身体柔らかくないし、文化みたいにおっぱい大きくないし………………こんなゴツゴツした筋肉だらけの身体だから、望乃夏と釣り合わないし………………」
「……………………雪乃さぁ、それ本気で言ってる?」
望乃夏の手が止まる。
「………………………こ、答えてよ…………」
口をついて出たのは、震えた声。答えはわかってるはずなのに、それでも答えを求めるのは怖くて。
「………………ボクは………………雪乃のこと、好きだよ?何なら証人呼んで誓ってもいいけど。」
頭の上からは、期待通りの答えが降ってくる。けど、それはどこか軽く思えて。
「………………ほんと?」
「………………まだ疑うの?」
「………………望乃夏は、私のどんな所が好き?」
「んー………………全部、ってのはやっぱナシだよね。そうだな………………すぐに赤くなるとこ、怖い目してるのに甘えんぼなとこ、たくさん食べるとこ、すぐにお布団潜り込んでくるとこ、クールなのに温かいとこ、後は…………」
「も、もういい………………」
き、聞いてるこっちが恥ずかしい………………
「………………ね?これで分かってくれた?」
「………………充分過ぎるぐらい。」
「良かった。………………ね、ね、今度は雪乃がボクの好きなとこ教えてよ。」
「そ、そんなの……………………全部としか………………。」
「………………雪乃、それ反則。」
「う、うるさいわね………………」
い、今考えるから………………。
とは言っても、急かされるとなかなか思いつかないもので。
「…………もう少しだけ待って?」
「………………もう、早くして。」
待ちくたびれたように、望乃夏が足をパタパタさせる。そして、私のことを後ろから抱っこして、
「言ってくれるまで雪乃のこと離さないからね?」
「そ、そんなことされたら余計に思いつかないからっ!?」
………………あうぅ………………。