表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/152

雪乃の、過去。(前編)―雪乃

今回尾篭な話になります。

「…………さて、用が済んだら私のベッドから早く下りてくれるかしら。」

「あっごめん。」

望乃夏が慌ててベッドから飛び降りる。

「…………全くもう………………。」

…………後から気になって、寝られなくなるじゃない。

それにしても…………この部屋、寒いわね。思わず身体を震わせる。

「ねぇ望乃夏。暖房入れない?」

「…………確かに、寒いよね。」

リモコン、リモコン…………と床を四つん這いで探す望乃夏。…………もうちょっと女の子らしい仕草はできないのかしら。

「あ、あった。」

よっ、と手を伸ばして望乃夏がエアコンを点ける。

「…………冷風ね。」

「…………冷風だね。」

リモコンを覗くと、28度になっている。ただし「冷房」で。慌てて暖房に切り替えたけど、そう簡単に風の温度は変わらない。

「「…………寒い。」」

望乃夏が身震いする。冷風のせいで、余計に部屋が寒くなった気がする。

「…………そうね、部屋が温まるまで時間かかりそうだし、その間私のレモンティーを飲んで温まらない?」

「え、いいの?…………雪乃のなのに。」

「構わないわ。………………私だって、望乃夏のを勝手に飲んでたわけだし。」

「まぁ、そのお陰でこうして仲良くなれたわけだけど。」

「うっ、うるさいわね………………」

…………一々思い出させないでよ。

「あ、済まないけどボクの分も作っといてくれる?」

「いいけど…………どうしたのよ?」

「ちょっと、お花を、ね。」

それだけ言い残して、望乃夏はスタスタ出ていく。何よ、ちょっとは女の子らしいとこあるじゃない。


折角だから、と戸棚からティーポットを取り出してティーバッグを入れる。…………中等部の頃からずっと戸棚の肥やしになってたから、まさか使う時が来るなんて思いもしなかった。いざお湯を注ごうと電気ポットを持ち上げると………………軽い。「あの時」に使ったのが最後だったのね。

…………興醒めだわ。ため息をついて、ポットに水を入れてスイッチを入れる。さて、望乃夏が帰ってくる前に湧くかしら。

…………それにしても、暖かくならないわね。寒さに身震いして…………ふと、下腹部に意識が向く。………………やっぱり望乃夏についてけばよかったかしら。

その時、望乃夏がちょうど帰ってくる。

「あら、おかえり。………………お湯の方はまだよ。」

「えー………………しかも外も中もこんなに寒いのにぃ。」

「…………寒い寒い言わないで。こっちまで寒くなるわ。」

「そうは言ってもさ―――」

ポットのスイッチが戻る音で、その続きは遮られる。

「あ、沸いたみたい。」

…………案外早かったわね。まずは望乃夏と私のティーカップをお湯で温めて、その後ティーポットにお湯を注ぐ。…………うん、そろそろね。

カップのお湯を捨てて、二人分のティーカップにレモンティーを注ぐ。

「やっと…………暖かいものにありつける…………。」

二人分のカップを持って給湯室を出て、テーブルに置く。

「さて、じゃあ飲もっか。」

「…………じゃあその前に私も花を摘んでくるわ。」

カップを置いて歩き出す。

「………………まさかレモンティー見てて…………」

「へ、変なこと言わないで…………」


後ろ手にドアを閉めると、視界は少しの間闇になる。部屋の明るさに慣れているだけに、すぐには暗さに目が追いつかない。

……………………あら、なんか隣の部屋が騒がしいわね。喧嘩…………?

「…………もういいよバカっ、知らないっ、『じゃあね』!!」

勢いよく扉が空いて、誰かが泣きながら出てきて、乱雑に扉をバンと閉めていく。だけど、私はそれを見る余裕は無くて。

(暗い………………寒い………………扉のバーンて音…………怒った声………………一人っきり…………それに、『じゃあね』………………)

私の中で、何かがノイズ混じりにフラッシュバックする。………………ダメ、負けそう。

…………それなら……………………。私は部屋に引き返す。

「あれ、雪乃。早かったじゃん。」

「………………望乃夏…………。ごめん、頼みがあるの…………私と一緒に、付いてきて………………。」

次回、雪乃ちゃんの心の傷に触れていきます。

闇深気味なのでご覚悟を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ