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スペシャルブレンド。―望乃夏

その後は寝ることもなく、無事(?)目的地に着いた。

「ふわぁ………………」

「どう?いいとこでしょ?」

「うん………………入る前から分かるよ。ここは天国だって。」

「………………もう、大げさね。まぁわからなくもないけど。」

そう、そこはボクにとっての天国。店先には可愛らしいティーセットが並べられてる。その棚の下では、焙じ機がガラガラと回ってお茶っ葉を焙じてて、辺りにいい匂いが広がってる。

「ああ、早く中に入りたい…………」

吸い寄せられるようにフラフラと入口に向かうと、雪乃が手を握って引き止める。

「…………なぁに?」

「望乃夏、楽園を見つけて嬉しいのは分かるけど…………しっかりして。」

「やだなぁ雪乃、ボクはまともだよ?」

「………………本当?」

疑わしげな視線を送る雪乃に、ちょっとだけたじろぐ。

「………………はい、少しだけ意識持ってかれてました。」

「正直でよろしい。」

そう言うと、スタスタとお店の中に入っていく雪乃。あ、ちょっと、置いてかないでよ!?


「こんにちわ、お久しぶりです。」

雪乃が店員さんに声をかけると、広げていた新聞を畳んで店員さんが立ち上がる。

「おや、雪乃ちゃんか。久しぶり。」

「ご無沙汰してます。」

………………へぇ、雪乃ってここのお店の人と知り合いなんだ。………………っと、それよりもこの茶葉が気になるな…………ふむふむ。

「久しぶりだね。もう冬休みかい?」

「いえ、まだです。………………今日は、友達にこのお店を紹介しようと思って。…………望乃夏、こっち来て。」

急に話を振られて驚く。その拍子に手に持った缶を取り落としそうになって、すんでのところで受け止める。

「ちょっ、望乃夏!?…………気をつけてよね、そこに並んでるのはみんな高いのだから。」

そう言われてふと缶を見ると、値段が貼ってあって………………ふぇ!?ぐ、グラム4500円………………!?

今度は落とさないように、そーっとそーっと恐る恐る棚に戻す。………………あ、危なかった………………ついでに寿命が数年分持ってかれた………………。

そんな私達を見て店員さんは大笑いする。

「はっはっは、それはサンプルだから落っことしても大丈夫。………………流石にわざとだったら缶ごと買ってもらうけどね?」

「は、はい………………」

………………か、缶ごととか、半年の学費がすっ飛ぶんですけど!?

「店員さん、うちの望乃夏をからかうのは程々にお願いします………………けっこう間に受けちゃう子なので…………。」

雪乃が頭を抱えてため息をつく。

「ハハハ、流石に缶ごとは売れないさ。………………何たってそれはうちの最高傑作、ブレンドも門外不出だからね。飲んでみる?」

「え、いいんですか!?」

「雪乃ちゃんの友達だからね。それに最近ブレンドを変えたから、率直な意見も聞いてみたいし。」

そう言うと、店員さんは奥へと引っ込む。

「ふわぁ………………最高傑作、かぁ。ね、雪乃。雪乃はアレ飲んだことあるの?」

「流石にないわ。あんなのお小遣いじゃ買えないもの。」

だよねぇ…………………………どんな味なんだろ?

「はい、出来たよ。」

と、戻ってきた店員さんが二人分のティーカップを用意してくれる。そこに注がれた紅茶は、カップに当たった途端金色の渦を巻く。

「見て雪乃、金色だよ!!」

「見れば分かるわよ………………でも、いい香り。」

もっと良く見ようと身を乗り出すと、店員さんは何故か首を傾げてる。………………なんで?

「さ、飲んでみてよ。」

促されるままに口に運ぶと、深みのある味が口の中に広がっていく。………………けど、何かが物足りない。スペシャルブレンドと言うけど………………何だか一つの味しかしないみたいで………………。でもそんなことを言うのは店員さんに悪いし…………。ふと横を見れば、雪乃は美味しそうに飲んでる。ってことは、私がおかしいの?

「おかしいなぁ………………」

と、店員さんもティーカップに注いで口に運ぶ。その瞬間、店員さんの目が見開かれる。

「………………ごめん、これしっくり来なくて諦めたやつだ。…………間違えたみたい。」

………………私たちは、盛大にズッコケた……………………。

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