抱き寄せてほしい。―望乃夏
いつの間にか10日ぶりになってた(滝汗)
ラーメン屋さんを出ると、また冷たい風に包まれる。…………ふぇぇ、さっむっ。
「望乃夏、寒いから早く行きましょ。」
とてとてと歩く雪乃の後を早足で追う。
「ま、待ってよ雪乃………………うっぷ」
「望乃夏、遅いわよ…………」
「だ、だって…………お腹いっぱい…………」
………………うっ、なんか上がってきた………………。
「………………はぁ、もう…………しょうがないわね。」
雪乃はそう言って、立ち止まって私を待ってくれる。
「………………うぅ、ありがと雪乃…………」
「………………全く、あれぐらいでお腹いっぱいになっちゃうなんて。」
「いや雪乃、あの量はお腹いっぱいになるって。」
………………雪乃のおなかはほんとに底なし沼だなぁ………………
「………………もう。そこにバス停があるから休んできましょ。」
「う、うん………………」
屋根のあるバス停のベンチに腰掛けると、だんだんとお腹の方も落ち着いてくる。
「………………それにしても、最初の予定とは大分変わったわね。」
「………………まぁ、それもいいんじゃない?」
「………………そうね。」
傾いた夕日が、静かに私達を照らす。雰囲気にあてられて恐る恐る雪乃に手を伸ばすと、待ち構えていたかのようにその手を握られる。
「……………もうすぐ、日が暮れるね。」
「………………そうね。」
………………ど、どうしよう………………話すことがない………………。夕暮れのベンチで2人っきりなんて、またとない絶好のシチュエーションなのに。ヘタレなボクには、雪乃と話す話題がない。
……………………ど、どうしよう。
その時、私の手を握る力が強くなる。
「………………雪乃?」
「望乃夏、どうしたの?寒いの?」
「………………ああ、うん、寒いね………………」
「そう…………ずっと何か考えてたし震えてたから、寒いのかなって。」
「そうだね、早くバス来ないかなぁ。」
手のひらを擦りながら、次のバスを待つ。………………てか、ほんとに来るのかな?
「………………望乃夏。」
ん?と振り向くと、腕を広げて近寄ってくる雪乃。そしてそのまま、私に抱きついてくる。
「ゆ、雪乃!?」
突然の事で回らない頭を無理やり働かせて、雪乃を引き剥がそうとする。
「………………私も、寒いから。………………嫌、だった?」
きょとんとする雪乃に、少しだけ混乱する。………………こ、こんな誰が見てるか分かんないとこで………………。辛うじて理性のストッパーを働かせて、雪乃を押しとどめる。
「い、嫌じゃ、ないけどさ………………こ、こんな…………誰が見てるか分かんないようなとこで…………」
「大丈夫よ。次のバスまでまだ時間あるし。………………それに、せっかくこんないい雰囲気なのに何もしないのは、ね。」
「ゆ、ゆきのぉ………………」
一応、周りを見回す。よし、誰もいない。………………それから、私の理性のストッパーを少しだけ緩める。腕の力を抜いて、雪乃を受け入れる。コート越しにでもわかる、雪乃の熱が私を温めていく。
「………………雪乃、あったかい。」
「望乃夏もあったかいわ。」
耳元で囁かれる雪乃の声に、私の理性のタガがずるずると緩んでいくのが感じられる。…………ダメ、ここは街中………………。
「………………望乃夏?」
どこか不満げな雪乃の声が、私を現実に引き戻す。
「………………雪乃、ごめん。ここまでにしとこう………………じゃないと………………理性がもたない…………」
飛びそうになった意識を呼び戻して、雪乃から少しだけ距離をとる。
「……………………あら、望乃夏は我慢が苦手なのね。」
「…………それは雪乃もでしょ。」
「…………っ!?………………そ、それは、そうだけど………………」
しどろもどろになる雪乃を、さっきより優しく引き寄せる。
「………………抱き合うのは、お部屋帰ってからね。」
雪乃の腕に自分の腕を絡めて暖をとる。…………これぐらいなら、大丈夫、かな。
「………………望乃夏のヘタレ。」
うるさいよ?
「………………約束、だからね?」
コクリと頷いてみせる。
………………時々、雪乃はすごく大胆なことをするってのを私は身をもって知った。