表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/152

ラーメン屋。―雪乃

「さ、着いたわよ。」

望乃夏を連れて電車を降りると、見慣れた景色が私達を出迎える。

「うーん、いかにも田舎の繁華街って感じ。」

「……………………失礼よ、望乃夏。」

これでも私のお気に入りの場所なんだから。むすーっとして軽く睨むと、望乃夏は少しだけ慌てて謝る。

「…………冗談よ。さ、日が暮れる前に行きましょ。」

望乃夏の手を引いて改札を抜けると、まず飛び込んできたのは美味しそうな匂い。それに反応して、私のお腹が鳴る。………………な、なにもこんな時に鳴らなくてもいいじゃないの…………。

俯いて赤くなると、望乃夏もお腹を抑えながら俯く。

「………………やっぱりお昼軽かったかな。雪乃、この辺でオススメのお店ある?」

「……………そうね、私のオススメは…………この匂いの素である、このお店ね。」

と、私はすぐ横のラーメン屋を指さす。

「へぇ、雪乃って辛いの苦手なのにラーメン屋さん行くんだ。」

「失礼ね、味噌ラーメンはダメだけど豚骨や醤油なら食べられるから。」

望乃夏にからかわれてるってのは分かってるけど、それでも反撃しちゃう。

「………………ま、とりあえず行ってみよっか。」


暖簾をくぐると、鼻をくすぐる匂いは一段と強くなる。空いた席に腰掛けると、私は望乃夏に聞く。

「望乃夏は何にする?」

「うーん、ボクは醤油。」

「そう、なら私は豚骨ね。」

それぞれオーダーすると、望乃夏の方を見る。

「それなりに量あるから覚悟しといた方がいいわよ。」

「………………まじで?」

私が答えるより先に、ラーメンが運ばれてくる。

「………………ね?わかったでしょ?」

「………………もやしとキャベツの富士山…………」

「食べきれなかったら私にちょうだい。」

「い、いや、なんとか頑張ってみる………………。」

望乃夏が恐る恐る箸を差し込むのを横目に、私はもやしの山をかき崩す。そして固めの麺と合わせて口に運ぶ。………………うん、この歯ごたえはいつ食べても最高ね。

ペコペコなお腹はラーメンをどんどんと受け入れていって、あっという間にもやしの富士山はスープの池へと沈んでいく。…………やっぱりちょっと物足りないわね。

ふと望乃夏を見ると、向こうもなんとかキャベツ&もやしの山を攻略できたみたいで残りの麺と取っ組み合いしてる。

「すみません、ギョーザ一つ。」

注文するとすぐにギョーザが運ばれてくる。まずは何もつけずに一つ。…………うん、やっぱりラーメンの〆にはギョーザね。

「あれ、雪乃はギョーザ頼んだの?」

望乃夏がレンゲを止めてこっちをのぞき込む。

「これ美味しいのよ。望乃夏も半分食べる?」

ずいっと皿を望乃夏の方に押すと、箸が伸びてきてギョーザを掴む。

「望乃夏、醤油付ける?」

と、小皿を渡そうとしたら、望乃夏が慌てて水を飲んでいる最中だった。

…………望乃夏、もしかして猫舌?

「………………ふぅ。何このギョーザ、かじった途端あっついのが口の中に………………」

「望乃夏、言い方がえっちいわよ。………………でも美味しいでしょ?」

「うん、食べた途端に肉汁が広がって…………こんなの食べたことない。」

「でしょ?いくら星花の食堂でも、なかなかこんなのは出てこないわよ。」

自慢げに言うと、望乃夏はもう一つギョーザに手を伸ばす。

「今度は気をつけなさいよ?」

「分かってるって。………………はむっ」

…………あ、またやった。

「………………もう。気をつけてって言ったのに。」

「…………か、かじったら口の中に広がるんだもん…………どうやって食べればいいのさ………………」

「………………望乃夏、やっぱり猫舌?」

「………………うん。熱すぎるのは、ヤダ。」

「ふふっ、やっぱり黒猫さんね。」

「むぅ……………………それを言うなら、雪乃だって気ままで寂しがりな白猫さんじゃん。」

「に゛ゃっ!?」

………………やり込めたつもりが逆にやり込められちゃった。

「………………はむっ。やっぱりこのギョーザおいしい。」

「そ、そうね………………」

………………気ままなのは黒猫さん、あなたもじゃないの?だってこんなに、私の心をかき乱すんだもの。

そんなことを考えつつ、『白猫』は残りのギョーザ争奪戦へと箸を進めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ