呪文。―雪乃
「………………おーい、ゆきのーん…………?」
「………………」
「………………おーい?」
「………………聞こえてるわよ…………」
………………ホントは聞きたくないけど。
………………の、望乃夏だけじゃなくて、あの場にいた人全員に見られた………………。私の顔は、もう火が出てもおかしくないぐらい真っ赤になってて。
「………………ゆ、雪乃………………そんなに気を落とさないで………………。」
「………………元はと言えば望乃夏のせいじゃない。もし望乃夏が叫ばなかったらみんなも上向かなかったかもしれないし、それに………………走り出す前に言って欲しかったわ…………。」
「だ、だって雪乃がさっさと走ってっちゃうんだもん…………。」
「………………はぁ、もう…………。」
目線を上げれば、オロオロする望乃夏が見えた。………………もう、私だってオロオロしたいわよ………………。
「………………望乃夏は、見た?」
「………………な、何を!?」
「………………言わせる気なの?」
「………………暗かったからよく見えなかったけど、フリルだけ…………」
「そ、そこはウソでも『見えなかった』って言って欲しかったんだけど!?」
………………の、望乃夏にも見られたぁ………………。
「………………私もうお嫁に行けない…………」
「…………ボクが貰ってあげるよ…………って言えばいいのかな。」
「…………ほんとね?約束よ?」
「…………うん。」
いまいち締まらない会話だけど、そんなやり取りでも少しだけ心があったかくなる。
「…………とりあえず本題に戻るね。この後はどうするの?まだ靴屋さん探す?」
…………どうしよう、まだ考えてなかったとか言えない…………。
「…………そう、ねぇ。ひとまずどこかで休憩しましょ。ちょうど3時前だし、カフェはどう?」
「いいねいいねっ、確かさっきのとこにコーヒーチェーンあったよね。行ってみよっか。」
望乃夏が、妙にウキウキした様子で言う。それを見てるだけで、こっちまでワクワクしてくるから不思議ね。
「じゃ、行こっか。」
「うん。」
適当な席を見つけて2人で座ると、オーダーを決めることにする。
「…………うーん、何にしようかしら。」
「ね、ね、雪乃。私あれ頼んでみたい。」
望乃夏が身を乗り出す。
「………………何よアレって。」
「んーと、あれだよ…………なんだっけな、キャラメルマキアートトールビッグ………………あれ、何だったっけな………………」
「ああ、あの呪文ね………………」
「あ、思い出した。ヤサイマシマシニンニクアブラカラメ…………あれ?」
「望乃夏、それは黄色い看板のラーメン屋さんよ。」
「…………んーと、何だったっけなぁ…………ラテみたいなの。」
「………………トールアイスライトアイスエクストラミルクラテ?」
「そう、それ!!」
なぁんだ、全然長くないじゃない。
「………………じゃあ、頼んでくるわね。」
私は席を立つと、カウンターに向かう。
「すいません、トールアイスライトアイスエクストラミルクラテと。」
と、一旦望乃夏の方を振り返ってから、
「ショートアイスチョコレートオランジュモカノンモカエクストラホイップエクストラソース、お願いします。」
と、一息で言い切る。チラッと振り返ると、望乃夏はぽかーんと口を開いて唖然としている。………………ふふ、望乃夏。私にこういうので勝てると思ってたの?
ちょっとだけ優越感を感じながら、ドリンクが出来るのを待っていた。