おもいだす。―雪乃
「……………………はぁ。」
「……………………はぁ。」
二つのため息が見事にハモって、私達はぎょっとする。………………もしかして、望乃夏も、同じコト………………。
先に口を開いたのは、私だった。
「……………………望乃夏も、満足してないの…………?」
「『も』ってことは………………やっぱり、雪乃も?」
「……………………うん。」
「そっか………………」
……………………こんなので、満足なんて出来るはずない。私は、少しリップの剥げた唇へと触れる。………………お互いにためらって唇を重ねるだけで終わりになったさっきを、名残惜しく思うように。
「………………こんなのって、ないよね………………。」
「………………」
私は何も言い返せなかった。………………誰かが来るかもって思ったら、怖くて『いつも通り』が出来なくて。望乃夏にも、中途半端な思いをさせちゃった。
「……………………帰ったら…………続き、…………」
「…………望乃夏が、良いなら………………」
一度入った熱は、なかなか冷めてくれなくて。………………結局、私達が階段裏を離れられたのは、時計の針が一周してからだった。
気まずい空気を引きずったまま、私達はショッピングモールの中を歩く。
「………………雪乃、ほんとにこの階で合ってる?」
「うっ………………。」
………………どうしよう、あれだけ自信満々に「着いてきなさい」なんて大見得切ったのに、場所を忘れたかもしれないなんて、とてもじゃないけど言えない………………。
「………………雪乃、もしかしてまよ」
「だっ、だだだだ誰が迷ってるですって!?」
「………………図星なんだ…………」
あっ………………
望乃夏はため息をついて、
「………………まぁ、こうやって見て回るだけでも面白いから別にいいけどね………………。」
「ご、ごめん、望乃夏………………」
うう………………望乃夏の優しさが辛い………………。そんな気分を紛らわそうと、私は話題を変える。
「………………それにしても、凄い人の数ね。」
そうだね、と望乃夏は辺りを見渡す。
「もうそろそろクリスマスだし、年末だからね。みんな買うものも多いんだよきっと。」
クリスマス、かぁ。………………クリス、マス……………………クリスマスっ!?
「……………………ねぇ望乃夏、今日は何日だっけ………………?」
「ん?雪乃の誕生日の次の日だから7日じゃないの?」
「………………望乃夏、私達は重要なことを忘れてたわ………………。もうすぐ、定期考査よ………………。」
………………はぁ、やっちゃったわ………………もうすぐ試験なのに、すっかり忘れてた………………。
「いや、それは覚えてるけど………………まだ時間あるしそこまで悩むようなことじゃないと思うけど………………。」
「の、望乃夏………………あなたお気楽すぎるわよ………………」
私はワナワナと震える。………………けど、「まぁ、望乃夏だから」と思うと、不思議と呆れも怒りも浮かんでこなくなる。
「………………まぁ、それはおいおい考えるとしてさ。今はお買い物…………いや、2人でのデートを楽しもうよ。」
望乃夏の明るい声に、沈んでた気持ちもだんだんと上を向いていく。
「………………そうね、折角のデートを楽しまないと。」
今度は、私の方から望乃夏の腕に絡みつく。
「………………雪乃、温かいね。」
「あら、望乃夏もよ。」
私達は手のひら同士でお互いの熱を確かめあって、そのまま人混みに混ざって消えていった。