ミニ&ロング。―雪乃
「〜♪」
気がつけば、私は鼻歌を歌いながらスキップまでしてる。
………………望乃夏が私に誕生日プレゼントを贈ってくれた。それだけで、私の心はふわふわしちゃうの。
「………………もう、雪乃、はしゃぎすぎ。」
「あら、そうかしらん♪」
「ゆ、雪乃が壊れた…………」
急に青ざめる望乃夏。………………し、失礼ね、私だってたまには はしゃぐわよ………………。
「………………私が嬉しそうにしてるのが、そんなに変?」
「そ、そういうわけじゃないけど………………なんだろう、雪乃ってあんまり感情が外に出ないイメージだから………………。」
「そ、それは………………なんて言うか、あんまり外に出さないように押さえつけてるって言うか………………。望乃夏も薄々感づいてるとは思うけど、私って感情の振れ幅が大きいから………………。一度振り切れると、元に戻れなくなっちゃいそうで…………。だから、普段はできるだけ無表情で居るようにしてるの。」
「そうだったんだ………………。確かに、雪乃を初めて見た時は『この人笑ったりするのかなぁ…………』って思ってた。………………でも、これで納得できたかも。」
「………………何を?」
「………………雪乃が、ボクにすぐ懐いたわけ。」
「な、懐いたって………………人を犬みたいに言わないで………………」
「ごめんごめん。………………でも、雪乃と一緒にいるうちに『この人にも感情があるんだ』って分かってきて………………今は雪乃が何考えてるのか、なんとなく分かるようになった。」
「………………望乃夏………………。」
「………………それにしても、給湯室でいきなり泣き出したのは驚かされたなぁ。」
「の、望乃夏っ、その話はっ…………」
思い出したくない思い出を引っ張り出されて私は慌てる。
「正直言うと、ボクのアールグレイを勝手に飲まれたことへの怒りよりも、『あの白峰さんが泣いた』って衝撃の方が強かったね、あの時は。」
「の、ののかっ、もうやめてっ。」
思い出すだけで耳まで赤くなる。…………………………うぅ、今すぐ全力ダッシュして忘れたい………………。
「………………あの時の雪乃、ちょっと可愛かった。」
「の、ののかぁ………………」
………………これ以上その話をされたら、恥ずかしさで死んじゃいそう…………。
「………………ごめん雪乃、流石にいじりすぎた。」
「………………もう、望乃夏の、バカ。」
………………帰ったら覚えてなさいよ。
「んーと、実用靴は………………さっきのとこに行けばわかるかな。」
「…………どうかしらね、見た感じファッション重視みたいだったけど。」
私達は、さっき望乃夏がいた所をぶらついていた。
「うーん、ランニングシューズみたいなのは別んとこ行かないと無いみたいだね。」
「………………そうねぇ。」
他のとこ行きましょ、と振り向くと、私の目に一足のブーツが飛び込んでくる。
「………………望乃夏、これ履いてみて。」
「ん?………………これ?」
「そう。そっちに椅子があったから。」
「………………ん、わかった。………………これもブーツなのかなぁ、見た目は長靴みたいだけど。」
ぶつくさ言いながら望乃夏はロングブーツに足を通す。…………あら、ぴったりね。
「望乃夏、それにしたら?」
「えー、こんな長靴みたいなの?」
「の、望乃夏っ!?ブーツ売り場でそれは言っちゃダメよ!!」
………………て、店員さん、うちの望乃夏がごめんなさい………………。
「………………ロングブーツはね、望乃夏みたいに足が長い人だと映えるのよ。」
身長は私の方が高いけど、腰の位置は望乃夏の方が上にある。………………つまり、そういうことだ………………。
「………………私みたいな大根が履いたら膝から上も全部覆われちゃうから。そういう時のためのミニブーツなのよ………………」
「ゆ、雪乃………………」
私の引きつった笑いを見て、望乃夏が後ずさる。
………………気まずい空気が、あたりに漂った。