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ベンチあれこれ。―雪乃

ユサユサと頭が揺さぶられて、私は重いまぶたを開く。…………んもう、何よ………………。

「雪乃、もう11時ぐらいだけど…………」

「ふぇっ!?」

慌てて飛び起きると、おでこが望乃夏の頭と激突する。…………いっ、いたい………………

「の、望乃夏、大丈夫!?」

「イテテ…………なんか頭のネジが何本か吹っ飛んだ気がする…………」

望乃夏は、頭を抱えながら呻く。

「の、ののかぁ…………」

………………望乃夏のことも気になるけど、今は何時だろ…………。腕時計を覗くと、時刻はもうそろそろ11時。……………………じゅっ、11時!?

「の、望乃夏、30分で起こしてって言ったじゃない!!」

「だ、だって雪乃………………30分で起こそうとしたら、ボクの服掴んで『もっと寝かせてよ…………』なんて言うから………………。」

「にゃぁぁ!?」

わ、私、寝言でそんなことを……………。

「…………そう言われたら、もっと寝かせてあげたくなるじゃん………………まぁその分、雪乃のことずっと眺めていられたけど。」

身体中の血が頭に集まってきて、顔が真っ赤になる。

「ゆ、雪乃ー………………?」

「の、のののののののののののか!?」

「と、とりあえず落ち着こう!?」

肩に手を置いて落ち着かせようとしてくる望乃夏。だけど、熱暴走しかかっている私の頭は、そんなことじゃ止まれなかった。ベンチにもう一度腰掛けて、望乃夏も強引に座らせる。

「の、ののかっ、膝を貸してあげるからあなたも寝なさいっ。いやむしろ寝ろ!?」

「ゆ、雪乃が壊れた!?」

「ほら早く寝なさいっ!!」

強引に望乃夏を私の膝に引き倒して押さえつける。

「わ、わかったから!?押さえつけないでっ!?」

「じゃ、じゃあ30分したら起こすわよ!?」

「は、はーい………………」

望乃夏は、やれやれといったように目を閉じる。………………そして私の暴走した頭も、温み始めた北風に冷まされていく。

わ、私、勢いに任せて、何して……………………。また血が登りかけた頭を振って、全部忘れようとする。そんなことをすれば当然、身体も動くわけで。

「ちょっとー、枕ー。寝心地悪いよー。」

「あう、ご、ごめん…………。」

目を覚ました望乃夏に怒られる。

「………………ん、それでいい。」

私が落ち着くと、また望乃夏は目を閉じた。改めて私は、望乃夏の顔をじっくりと眺める。

レンズの奥に隠された小さめの眼に、ちょっとだけ高い鼻、少しだけかさついた唇、そして、出会った頃よりも血色も張りも良くなったほっぺた。これが、望乃夏。わたしの、愛しい人。少し変わってて、自分のことを『ボク』と呼んで、ちょっとだけエッチなとこがあって、私とおんなじ女の子。

「………………望乃夏、起きてる?」

「…………………………んもう、なにさぁ?寝かしてくれるんじゃなかったの?」

文句を言いながらも目を開ける望乃夏。その目が、すぐに見開かれる。

「…………おでこで、ごめんね。」

目一杯に身体を屈めて、望乃夏に口付ける。

「………………ごめん、寝顔見てたら、つい。」

ちょっとだけ恥ずかしくなってそっぽを向く。

「………………雪乃、こっちには?」

と、不満げに望乃夏が唇を指さす。

「し、仕方ないでしょ。この体勢だと届かないから。」

「ん、なら。」

望乃夏が静かに起き上がって、下から私の唇を奪い取る。私の力が、次第に抜けていくのを感じる。

「ぐっ、雪乃、タンマ…………」

望乃夏がいきなり唇を離すと、そのまま私の膝に倒れ込む。

「の、ののか…………?」

ぼーっとした頭で望乃夏を眺める。

「ふ、腹筋が……………………いたい………………ゆきのぉ、やっぱ無理だよこの体勢…………。」

「………………そうね、やっぱり向かい合って『する』のが一番ね。」

その言葉に望乃夏が起き上がる。私も、望乃夏を受け入れるために目を閉じて待つ。望乃夏に顎をクイッとされて、顔が近づいていくのを感じる。そんな私達の間に、可愛らしい音が二つ響く。

「……………………」

「……………………」

顔を離して、お互いのことを睨む。………………なんでこんないいシーンなのに、お腹の虫を鳴かせるのよ………………。私も望乃夏のこと言えないけど………………。

「………………あーもう、興醒めだよ………………。」

そう言うと、望乃夏は立ち上がって服を整え始める。

「………………そうね。」

私もベンチから立ち上がって、コートをしっかりと着込む。

「…………雪乃、お昼って考えてある?」

「…………そうね、当初の予定だとショッピングモールの中で食べるつもりだったけど………………この辺で何か食べられるとこあるかしら。」

「一応そこに牛丼屋なら。」

と、望乃夏が指を指す。

「あ、あんたねぇ………………」

せっかくのデートなのに牛丼って……………………。

「だから、さ。お昼は安く上がらせて、午後からは買い物を楽しも?」

そう言って無邪気に笑う望乃夏に、私はため息をつく。

………………この辺が望乃夏らしいと言うか………………。ま、こういうのも私達のデートらしくていいかも、ね。

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