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パラドックスの有効的な使い方  作者: KITA
一章 冬の終わり
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一章 1 欲しいけど要らない

本編開始です

全知全能のパラドックス、というものがある。

全知全能の神がいるとしよう。全知全能だからなんでも持ち上げられるはずだ。また、全知全能だからなんでも作ることもできるはずだ。ならばその神は自分の持ち上げることができないダンベルを作れるか?というパラドックスだ。

神も不便な能力を持っているものだ。全知全能なんていう曖昧な能力だから、こんなパラドックスが発生してしまう。そういった特殊能力的なモノは、いっそ局所的で部分的過ぎる方が良いのだと思う。それの一番の例は多分俺自身だろう。


親指と人差し指を立てて、銃の形を手で作る。その銃をエアコンに向け、小さく「バン」、と呟いてエアコンを撃つ真似をする。するとエアコンがピッと機械的な音を立てて動き始めた。


ほら、こんな風に。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


昨日エアコンを点けっぱなしで寝たせいか、部屋の中が妙に冷えている。ただ、寒いとは感じなかった。それは単に俺が暑がりなのか、それとも春の陽気である程度寒さが相殺されているのか、どっちなのだろうか。単純に俺が布団の中にいるからかも知れない。

ヴィー、ヴィー、と音を立たせながらエアコンが稼働している。一晩中点けてたせいかエアコンらしいその音は微弱で、もはや動いているのかどうかも怪しい。

確かエアコンって点けたままの方が電力消費抑えられるんだっけ。でもうろ覚えだし、点けっぱなしはやめておくか。

エアコンを消そうと思って、布団の中からリモコンを見つけようと探す。だが見つからなかった。おかしいな、寝る前に点ける時は大抵布団の中に突っ込んでるはずなんだが。

そこまでやって、思い出した。

ああ、そうだった。昨日は使ったんだった。特殊能力。

そう納得して、左手の親指と人差し指を立てて銃の形を作る。エアコンに狙いを済まし、「バン」と呟いて撃つ。するとエアコンが「ピーッ」と、点ける時より少し長めの機械音を立てて活動を停止する。

忘れがちなんだよな、この能力。

忘れても別に問題ないし。忘れてなくても使い所そんなにないし。

いや、決して欲しくない能力ではない。便利そうだし、結構欲しい。でも、一つしか持てない特殊能力がこれ、というのはちょっと嫌だ。


電化製品をちょっと操れる能力。それが俺が持つたった一つの、恐らくこれからずっと向き合うであろう能力。


要らない。いや、欲しい。でも要らない。そんな能力だ。

特殊能力を持っている、それだけで十分と思うかも知れない。だがそうはいかない。

俺の能力には「縛り」がある。

まず一つ。あくまで「ちょっと」操れるモノなので細かい操作はできない。例えば、エアコンの冷房暖房を使い分けるくらいなら可能だが、スマホのロックを解除してアプリを開く、なんていう小難しい操作はできないのだ。

二つ目。能力が効く範囲は限られる。まず、俺が見えるところにあること。それと、俺から約5m以内にあること。どちらもエアコンで試した。

そして最後に三つ目。俺が使用法を知っている電化製品であること。まぁ知らない電化製品なんてほぼ無いんだが、昔のゲームとかは平成男子である俺には使い方が分からない。ファミコンとか、ゲーム&ウォッチとか。


まぁこんな感じだ。他にも細かい「縛り」はあるが、大体こんなところだ。

どうだ。欲しいと思うだろうか。俺は我ながら要らないと思う。あっても損はしないのだが。やはり欲しいけど要らない能力、ということだ。


今のところ、これ以外の特殊能力を俺はまだ知らない。もしかするとこれの他には特殊能力なんて一つも無いのかも知れない。だが、その可能性は低いと信じたい。世界に存在するたった一つの大事な特殊能力がこんなやつだっていうのはなんか、凄く嫌だ。少年の夢を壊してしまう。しかもその大事な大事な能力を俺が持っている、というのはなんかプレッシャーかかる。もし俺の他に特殊能力を持っている奴が居たら電話、メール、なんでもいい。もうなんでもいいから俺に連絡をくれ。

しかしこの能力で異世界とか行ったらどうなるんだろう。生き延びれない絶対の自信がある。いや、でも最近は最弱の能力で無双するだとかいう最弱じゃないじゃねえかみたいなラノベとかなんかが流行ってると幼馴染に聞いた気がするし、割と生き延びれるかも知れない。いや無理か。無理だな。無理無理。そんなのラノベと現実を区別できてない奴が言うことだ。特殊能力を持った奴が言うセリフじゃないかも知れないが。

ちなみに、能力を使うときに手を銃の形にする必要はない。実際は頭の中で「冷房冷房冷房冷房冷房冷房」と念じたら冷房が点いたりと、頭の中で念じることで能力は発動する。銃を作るのはまぁ、ルーティーンのようなモノだと考えてくれればいい。格好つけてるだけじゃねえの?ということは言わないお約束。


「ピーンポーン」


不意にインターホンが鳴らされる音がして布団の中でビクッとする。


「お兄ちゃん、誰か来てるよ」


隣の布団からそんな声がする。妹のいろはである。もう俺は高1、妹は中3になるというのに同じ部屋で寝るのはどうかと思うが、他の部屋が父や母の趣味で集めたもので埋め尽くされていて俺や妹の部屋を作ることが出来なくなっている。片付けろよ、とは思うが高価なものだったり俺も好きなものが多くて中々片付かない。


「ああ、そうだな」


寝起きで思ったより声が出なく、かすれて聞き取りにくい声になってしまった。だがいろはは聞き取れたらしく、


「どうする?私行ってこようか?」


となんとも優しいことを言ってくれた。流石我が妹。略してさすいも。しかし流石だと思いつつ、妹のその発言になにか違和感を感じた。


「いいよ、俺が行く」


そう言って布団から脱出する。壁に掛けてある時計を見ると午前六時を指していた。

こんな時間に何の用があるのだろうか。宗教勧誘とか?ピンポンダッシュの可能性もある。でもどちらにせよ朝から勤勉なことだ。お疲れ様です。

部屋を出て廊下に出ると、思ったよりフローリングの上が冷たく、また寒かった。もう四月に入ったとはいえ、冬は終わったばかりだ。まだ冬の寒さが残っているのだろう。


「どちら様ですか?」


そう訊くが、返事は返ってこない。不愛想な訪問者なことだ。

うちのインターホンはカメラ付きでは無く、客の格好を見る場合玄関の覗き穴から確認する必要がある。たまに、というかよく覗き穴の真ん前かつ近くに立ってる奴が居るが、あれはやめてほしい。そういう奴を覗き穴から見ると顔が拡大されて見えて、ビクッとする。魚眼レンズの悲しみである。

今回はそんな奴じゃなければいいな、と思いつつ覗き穴を覗く。


そこには、誰も居なかった。


「なんだ、ピンポンダッシュか」


玄関の横とかに悪ガキが隠れて居ないか見るためにドアを開ける。

やはり誰も居なかった。

随分早起きなピンポンダッシュだな、まだ六時なんだが。それとも誰かが部屋を間違えたのだろうか。分からん。


「なんだったの?」


後ろから声を掛けられた。振り向くと、そこにはいつ起きて来たのかいろはが立っていた。


「いや、分からん。多分ピンポンダッシュだ。ったく、どこの悪ガキがやったんだか」


俺がそういうといろはは、「なんだ、ピンポンダッシュか」と言って家の中に戻っていった。それに続いて俺も家の中に戻る。うう、フローリング冷たっ。

家の中に戻る時、もう一度後ろを振り返った。そこには、静寂と、虚空と、朝の冷たさがあった。

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